(39)413 『motor neuron Ⅱ ~ザ・ヒール~ (後編)』



大きな影が女めがけて飛びかかる

バコォォォォン・・・

研究室、いや建物全体に大きな音が響き渡り、震えが走った。
また、その震源地となった部屋の中は小さなホコリにより視界が失われた。
キメラ“れでぃぱんさぁ”の一撃により、研究室の床に大きな穴が開いた。

研究室の主…マルシェはかろうじてその攻撃を避けたが、先ほどまで彼女が飛ばされていた部分は酷い有様になっていた。
彼女がいた位置、まさしくそこは大穴の開いている中心部。
コンクリートで何重にも補強されていたはずの床には建物の基盤が見えるまで大きな穴が開いており、その基盤も所々折れていた。

グルゥゥゥゥ・・・

穴の底からまさしく獣が威嚇しているような声が絶えず流れ続けていた。
土煙が消え、そこには両手両足を地面に付き、顔を上に挙げて咆哮する一匹の野獣の姿があった。

『れでぃぱんさぁ』・・・Dr.マルシェが最近研究していた生物兵器の試作品の1つ
マルシェ曰く『最強の肉食獣』を作り上げた作品。豹の俊敏性、熊の力、チーターの瞬発力…
それらの能力を組み合わせて作り上げたDr.マルシェの会心の作品・・・となるはずだった

ふと廊下の方からドタドタと急いで部屋に近づいてくる足音が聞こえた。
「マルシェ様、ご無事ですか?いったい、何が起きたのでしょうか?ご説明よろしくお願いします」
警備を担当している構成員が数人マルシェの部屋になだれ込み、マルシェに問いかけた。
「うん、私は大丈夫。ちょっとね・・・『れでぃ』が暴れちゃってさ」
「『れでぃ』・・・ですか?新しいキメラの名前ですよね?」
「うん、そう」
マルシェは穴の方に視線を向けたまま質問に答えた。
先ほどから、低いうなり声が絶えず響き続けた部屋の中では緊張した空気が張り詰めていたため、マルシェは隊員の方を向けなかった。


「いかがなさいますか?マルシェ様」
「そうねえ。。。ちょっと悪いんだけど、あなた達少しだけ、この穴を見張っていて」
マルシェは隊員達に指示を出し、自分は机の方に向かった。
机の上に置いてあるパソコンのデータを保存し、数枚の書類とともに机の下の金庫にしまった。
(もし、『れでぃ』が暴れたりでもしたら大変だからね…)
マルシェはほんの数秒間部屋の中心に空いた穴から見えない位置に偶然ながらもいることとなった。

マルシェが金庫に手をかざすと仄かな光が金庫を包みこみ、金庫の扉が消失した。
(よし、これで金庫が潰されない限りデータは消えないわ。ま、この金庫は特殊金属性だから絶対に壊れないけどね)

マルシェがぼんやり確認していると、ドンという大きな音と男の叫び声が聞こえてきた。
そして、ボキッという何かが折れる音、それからビチャビチャと液体が床に垂れる音が入ってきた。

グゥゥゥゥ・・・クチャクチャ・・・バリッ、ボリッ

マルシェが何事かと思い立ち上がろうとした時に部下が大声で叫んだ。
「マルシェ様、早く逃げてください!ここは危険です」
そして何発かの銃弾が放たれる音と部屋の壁に当たる鈍い音、ドンと何かが跳躍する音、そして更なる悲鳴が続いた。

「ヒィィィ・・・隊長、助けてください。こいつを早く・・・」
「わかった、今のウチに『れでぃ』を抑えるんだ!頭を狙うな!麻酔銃だ。足元を狙え!」
「早く、俺の血が、血が、抜けていく」
グゥワァァァァ!ガシュッ「ギャァー」

麻酔銃が放たれる音がしたが、それと同時に室内の書類がパラパラ舞い、何かがドスンと音をたて着地した。
新たな悲鳴が上がり、低くかがんでいるマルシェの位置からでも見えるような激しい血しぶきが宙を舞った。
そして、残っていた部下なのであろう、無線機に向かって必死に呼びかけを行い始めた
「緊急事態!至急、催眠部隊を!催眠部隊を、マルシェ様の部屋へ。早く来てくれ!
 ヒィィ、来るな・・・こっちに来るな。来るな~」
ドスッという何かを突き破る音がし、その隊員の声は途切れた。


部屋の中は奇妙なほどに静まりかえっていた。入ってきた部下達の呼吸は聞こえず、絶えず低い唸り声が響いている。
マルシェはおそるおそる、気配を消しながら、机の下から顔をあげた。
目に入ったのは静かに地面を舐めている穴の中から姿を現した『れでぃ』の後ろ姿と床に転がっているボロボロの物体。

『れでぃ』は自分自身の鋭い爪についていた液体を舐めているようであった。
丸太のような太い四肢を地面につけ、赤い舌で手に、口の周りに、床に付着している赤い液体を丁寧に舐めていた。
その床をぬらしている液体の出所を追っていくと床に倒れているボロボロの物体…先ほどまで「部下」だった男達の肉片に繋がっていた。

先ほどまで穴の監視を命じられたその男達は運悪く『れでぃ』の餌になったのであろう。
それが部下だと判断できるのは残されていた肉片に身体(からだ)の一部があったからだ。
床の上には組織至急の所属部隊を示す金属プレートをつけた右腕が残されており、その近くには腸管(なかみ)を失った胴体が倒れていた。
『れでぃ』の近くには首を大きく切り裂かれ、まだなんとか生きているのであろう。ぴくぴくと痙攣を起こしているものもあった。
最後に倒された男のものであろう無線機は赤く塗られ、血だまりの中に転がっている。

おそらく『れでぃ』はいま、食事の最中なのであろう。
絶えず口を動かし、時々地面に近づき、そのたびにバリバリと嫌な音がする。
『れでぃ』の鋭い眼に映っていたのは野生の本能に満ち溢れたギラギラした輝きであった。
爪や手を舐めるその姿は血に濡れたこともあり獰猛さが一段と増しているようにみえる。

「さすが、私だわ…こんな強力な兵器を作れるなんて…」
冷静に『れでぃ』の行動を分析しながらマルシェはぼそっと呟いた。

観察していると『れでぃ』がこちらの存在に気がついた。
ゆっくりと肉片を舐めるのをやめ、マルシェの方をじっと向く。
(…確か、私はプログラムにこう、埋め込んだんだったわね・・・
『視線があったものは殺せ。ただし、飼い主には従え』
しまった…催眠能力者を呼ぶの忘れたから『飼い主』登録するの忘れた・・・ということは)
『れでぃ』は食事をやめマルシェにむかって飛びかかってきた。そして、右に左に鋭い爪をはなって襲ってくる。


(やっぱり、このワタシを襲おうとしているのね・・・)
『れでぃ』がその太い腕を振るたびに強烈な風が起こり、部屋の棚や机の上にある資料がパラパラと舞う。
マルシェと『れでぃ』、その距離が少しずつ近づいていく…

                ★★★★★★

新垣の言葉を道重は自分なりに解釈しようと何度も何度も頭を巡らせた。
(治癒の能力が違う、痛みが消えない、怪我を治す)
新垣はそうしているうちに道重が勝手に持ってきていたおやつのヨーグルトをこっそりと取り返した。
「さゆみん、考えまとまった?」
ヨーグルト(Bon!Kyu!BON!! 乳牛100% 180円)の蓋をあけながら道重に新垣は尋ねた。
「治癒が違う…わからないです。だって、治すだけですよ。そんな単純なことに違いなんて…」
「あるの。しかも大きな違いが」
新垣はパクッとヨーグルトを一口食べた。
「うん、濃厚だ~おいしぃ。あのね、さゆみんはどこまで治したことあるの?」
「どこまでって怪我の程度ですか?え~と、骨折、火傷、ねんざ、失血…」
「じゃあ、その中で一番大きい怪我は何?」パクッ
「愛ちゃんの片腕を再生させたことですね。肩から切れていたのを何とか治せました」

一旦新垣はヨーグルトを食べるのを止め、机に置いた。
「マルシェはね昔、両手両足を同時に再生させたことがあるの」
なにか尖ったような言い方に敏感に気がついたと同時に嫌悪感を感じた。
「『再生』って嫌な言い方しますね。『治癒』って言いましょうよ。トカゲの尻尾じゃないんですから」
新垣は手にスプーンを持ったまま、あさっての方向を向いてしまった新垣の横顔を道重はじっくりと見ていた。

「・・・ねえ、さゆみん、自分自身の力のことを考えたことってある?」
新垣が視線もあわさずに道重に問いかけた。
「私の能力ですか?何を考えるんですか?」
「具体的にどこまでできるのかってことよ。私なら他人の心を覗くことができるけど、意のままに動かすことはできないみたいに」
新垣は手のひらをぶらぶらと揺らしながら問いかけていた。
「さゆみは~そうですね、おそらく肉体の傷は何でも治せると思いますよ。時間はかかるかもしれないですけど」
道重は高橋の片腕が離れてしまった時のことを思い出した。あの時、確かに時間にして数十分を要して道重は高橋を治癒した。


「さゆみなりの分析なんですけど、多分、さゆみの「力」は正確には『生命力を増幅させる』ことなんです。
 ガキさんから見た『治癒』も本当は、その人の持っている『生命力』を『増幅』している気がします。
 痛みが瞬時に消えるのも、多分そのおかげだと思います」
「というと?」
新垣はやっと道重のいるテーブルの方に向き直った。
「『痛み』というのは『生きている』から生じるんです。死んでしまったものは何も感じませんよね…
 でも、例えば、ガキさん、小さい頃に思いっきり楽しく遊んでいる時に指をちょっとすりむいても何も感じませんよね?
 さゆみ思うんです、小さくて思い切り楽しんでいる時は生命力に満ち溢れているんだと。
 『痛み』は生命力が大きければ感じなくなるんじゃないかって」

「じゃあ、さゆみんはこう言いたいんだね。
 『生命力を増幅するから、傷の治りは速くなるし、痛みは完全に消える。』
 そして、その痛みの消失はさゆみんの力ではなく、私達の体に備わっている仕組みによると」
「そうなります。さゆみはただ、傷付いた人の生命力を高めているだけなんですよ。
 だから、私は正常な人を治すことはできないですし、自分自身の傷を治すことはあまり得意じゃないんです」

新垣は道重と、リゾナンターと過ごしたこれまでの日々を思い返した。
「そういえば、そうだね。愛ちゃんとかは傷ついているイメージはあるけど、さゆみんはあまり傷ついているイメージないね。」
「・・・自分の傷を治すには他の人よりもずと時間がかかるんです」
「意外なところに弱点があるんだね。でも、思った以上に私なりのさゆみんの力の解釈と近かったよ」

「と・こ・ろ・で」
道重はテーブルから身を乗り出し、にんまりと笑顔を見せてガキさんに顔を近づけた。
「ガキさん、さっきのさゆみとマルシェの違いなんですけど、教えてくれませんか?」
顔がくっつきそうな距離で道重に言われ新垣はキョトンとした。
「あれ、もう降参なの?頭がいいって言ったばかりだよね?」
「『それなり』ですから!」
「ズコー。何よ、それ。頭いいんでしょ!」
「いやいや、ガキさんこそ、その動きが『何よ」ですから。それよりも答え教えてくださいよ♪」
新垣の後ろに大きく手をあげるオーバーリアクションに突っ込みを入れつつ道重は答えを急かした。


「わかった、説明するから。ちょっと、さゆみん、一回席について。近いから」
「はい、先生!!」
テーブルから身を乗り出すのをやめ、道重は椅子に座りなおした。
「これは、あくまでも私の推論から来ているから正解ではないけどいい?
 さゆみんとマルシェの違い、それは治癒するまでの時間の早さと対象の範囲の広さ」
「ということはあっという間にマルシェは治せるんですね。さゆみと違って」
「そう、なんでも一瞬に治せるし、その大きさは関係ないの。触れていればなんでも治せるからね。
 でも、どちらかというと治せる対象が一番違うかもね」
「対象って言うとマルシェは健康な人も治せるということですか?」
新垣はブンブンと首を振って返事をした
「健康な人じゃなくても、マルシェはなんでも治す、いや直せるの」

                ★★★★★★

『れでぃ』が振り下ろした右腕をマルシェは後ろに跳びはねてよけた。
しかし振り下ろした『れでぃ』の腕はガスッという鈍い音と共に床に大きなヒビを入れた。
振り下ろした右腕が空振りになった『れでぃ』はすぐさま後ろに逃げたマルシェのもとへと駆け出した。
その速さは普通の人なら反応できないものだった。ただ風が吹いているようにしか感じられず、部屋の中では書類が舞い上がる。
(この移動速度は計算上よりも高い数値をはじき出してるわね・・・)
マルシェはそのわずかな時間も冷静に『れでぃ』の身体能力を観察していた。

『れでぃ』の姿が目前に迫り、右腕を振り下ろそうとした瞬間、マルシェは一歩前に踏み込んだ。
小さいマルシェの体が大きな『れでぃ』の懐にさっと隠れた。
一瞬、マルシェの居場所を見失った『れでぃ』は右腕をピタッと止め、状況を把握したのであろう両腕でマルシェを掴もうとした。

「おそいわ」
マルシェは腰を低くおろし、背筋を伸ばし掌で『れでぃ』の胸板をパーンと叩いた。
そこは人間で言うところの鳩尾。さすがの『れでぃ』も動きは一瞬だが止まってしまう。
ここがチャンスとばかりにマルシェは『れでぃ』の右足に触れ、『力』を解き放った。

ウォォオォォオォォ・・・


獣の叫び声が部屋中に響き渡った。獣は自身の右足をおさえ、倒れ込んだ。
「変なところに人間的なところがあるのね…実に興味深い・・・」
苦痛のために床の上を転げまわっている『れでぃ』の姿を見降ろしてマルシェは呟いた。
「まあ、右足の筋肉を全て消したんだから動けないし、痛いのは当然よね」
そう言ってほんの一歩だけ、マルシェは『れでぃ』に近づいた

「わたしを忘れたの?『れでぃ』?あなたを作ったのよ。こんなことしていいと思っているの?」
マルシェが駄々をこねている赤子をあやすようなやさしい口調で話しかける。
その返事は左手による攻撃で返された。
さすがのマルシェでもこの攻撃は完全に避けることはできなかった。
振り上げられた左手はマルシェの肩をかすめ、見る見るうちに白衣を紅く染めていった。

「いけない子ね・・・」
『れでぃ』の動きを止めたままマルシェは一歩ずつ後ろに下がり、離れていく。
動きを止められたとはいえ、口や顔は動く『れでぃ』は絶えず低いうなり声を挙げマルシェを睨んでいた。
「いい?あなたは所詮、私が作っただけの道具なの。あなたは私に従わなくてはならない。」
マルシェは自分の椅子に座り、机の上に置いた拳銃を手に取った。

「あなたはその掟を破った。あなたは確かに『兵器』としては最高かもしれない。その力、野生の本能、凶暴性・・・
 でも、こんな私の命令をきけない子は必要ない。一時たりとも私を襲おうだなんて甚だしい。
 ただ暴れるだけなら許そうと思っていたけど、手を上げるなんてもう許せない」

マルシェのこれから起こす行動を本能的に察知したのであろう『れでぃ』は必死に這いずりながらも逃げようとした。
しかし鋭い爪のついたその手では地面を這いずって移動するのには向いておらず、ただ床に数本の線が描かれるだけであった。
「なるほど・・・爪が出っぱなしではこういう時に不便ね。今度作る時は爪がしまえる構造を作らないとね。
 ありがとう、参考になったわ、『れでぃ』。参考になったわ。おやすみ」
マルシェは右手に持った拳銃の標準を『れでぃ』の心臓のある位置に合わせ、ゆっくりと引き金を引いた。

ギャーーーーース        最後の咆哮が響き渡る。


しかし、その銃弾は『れでぃ』の太い胸板を貫通しなかったようで出血が見られなかった。
むしろ、傷口は氷が張られ、出血を防いでいた。
「ありゃ、思った以上に丈夫にできているみたいね。しかも、この銃、冷凍銃じゃない。
 …どうしようかしら?この部屋に他に銃はないし、失血死は時間かかるし、でも脳は保存したいし…」
マルシェは『れでぃ』と拳銃、そして自分の右手を順番に見た

「…痛いけど、あれをするか・・・仕方ないけど、研究のためね」
そう言ってマルシェはため息をつきながら、拳銃を再び『れでぃ』の方向に向けた。ただ、先ほどと違う点は2つ。
向けられている銃口の先には『れでぃ』の頭部。そして、その銃口が直接向いているのはマルシェの左手
「すぐに治せば…いいけど…どのくらい痛いんだろうかな・・・」
右手で引き金を引かれたことで飛び出した銃弾はマルシェの左手を貫通する。
予想以上の痛みが走り、マルシェは思わず、目を閉じた。
そして、左手を貫通した銃弾は発射時よりも数十倍の大きさに膨れ上がり、『れでぃ』の頭部へと突き刺さった。
最初は何事もなかったようにうなり続けている『れでぃ』だったが次第に、その声も止まり完全に静止した。

                ★★★★★★

「直すってどういうことですか?治すことと違うんですか?」
「『直す』のはね、『治す』のと違って、何でも元に戻すことができるの」
そう言って新垣は道重の目の前にヨーグルトの少し残った容器を差し出した。
「さゆみん、このヨーグルトは増やせる?無理よね。でも、マルシェだったら増やせる」

「じゃあ、能力の源はなんですか?さゆみの『生命力の増幅』に対して、マルシェは」
道重は差し出されたヨーグルトの容器を受け取りながら問いかけた。
「おそらく、『原子構造を自由自在に操る』。
 体を治すのは怪我したところの近くの皮膚や骨、神経を高速でコピーしてくっつける。
 ヨーグルトを増やすのはその成分を増やしているんだと思う。」
新垣の説明にただ黙って道重は聴いている。
「痛みが消えないのは、ただ組織を増やすだけだから痛覚は認識されるからだね。
 マルシェが触れる範囲だったら何でもコピーして治せるのはどこにでもある原子を利用しているから・・・」
「・・・すみません、ガキさん、原子ってなんですか?」


「はぁ?」道重の予想外の返事に新垣はすっとんきょうな反応で答える。
「さゆみん、理科で学ばなかったの?原子とか分子とか」
「学びましたけど、理科ってあまり使わないのでさっぱり忘れましたぁ」

                ★★★★★★

「イテテ・・・」
自分自身で撃った左手の傷の痛みを感じながらマルシェは失われた皮膚、神経、筋肉を『治して』いた。
左手を貫通させることで銃弾の大きさを変化させ、『れでぃ』の頭部に突き刺さるだけの強力な銃弾を作り出した。
冷凍銃の効果によって『れでぃ』の脳は凍らされ、完全に動きは止められた。いわゆる仮死状態にした。
「あくまでも、あの子も実験材料だから傷つけちゃいけないからね・・・被害が筋肉数本と頭部の銃痕で済んでよかったわ」

「すみません、催眠能力者ですけど~って終わってしまいましたかぁ」
「・・・遅い」
マルシェはようやくやって来た催眠能力者を蔑視した。

                ★★★★★★

新垣はなるべく簡単に道重に説明した
「だから、マルシェは同じ構成でできているものをコピーしているの。だから正確に言うと『治癒』ではなく『増殖』になるの
 それで応用として、物質を分解して消失させるの。わかった」
「なんとなくですが・・・とりあえず、さゆみとは全く違うんですね」
そんな結論に至った後輩を見てため息をつき、新垣は思った
(さゆみんはもうちょっと勉強しないといけないかもね)

「でも、ガキさんは実際、どうなんですか?同期が敵にいるのは?」
道重は新垣の目をしっかり見て真剣な眼差しで言った
「さゆみなられいなやえりが敵なら戦いたくないですけど・・・」
「でも、私は自分の正しいと思うことに従っていくからいいわ。例えマルシェが同期でも関係ないから」
新垣は椅子から立ち上がり天井を見上げて最後にこう言った
「だって、マルシェはheal(治癒能力者)で、heel(悪)なんだから」



最終更新:2014年01月18日 13:42