(25)425 タイトルなし(「SONGS」リゾナント作)



生きるのが下手
笑うのが下手
恋愛も下手
付き合いも下手

一体何なんだろう、俺って

…ハァ、疲れたなぁ
カウンター席に肘をつきながら、俺はすっかり暗くなった窓の外をぼんやり見つめていた――

――お客様?お客様?」

声を掛けられ、ハッとする。いつの間にか突っ伏して眠っていたようだ。注文を取ってから、品物が来るまでの僅かな時間だというのに

「お待たせ致しました、カプチーノとレアチーズケーキでございます」

目の前に置かれたカプチーノの表面には、スマイルマークのラテアート。こんな些細な心配りにも癒される
これを、この可愛いマスターが淹れてくれているのだから、尚のこと癒される


「なんだか元気ないですよ~、どうかなさったんですか?」

若干訛ったアクセントのその問いに、俺は堰を切ったように話し出す

職場の事、上司の事、先輩の事、同僚の事
そんな中で人間関係を保つ為に道化を演じる自分…

ここまで話して、そんな愚痴をこぼす自分に嫌悪感が押し寄せて来た
こんなに不満を持つのも結局は、自分がダメな奴だから。他人を許せないのは、自分の心が狭いから
自分が消えれば、全てが上手く回るんじゃなかろうか…

「すごく優しいんですね」

…えっ?

「そこまで疲れてるのに、自分を謙遜できるって、すごく優しい人だなって思いますよ」

そうかなぁ…

「でも、もっと自分に自信を持って良いんじゃないですか?」
「そや!弱気になり過ぎやけん!」

厨房で手を動かしていた子も、口を挟んでくる
だけど、今の仕事に本当疲れちゃった…


「もう見てられんと。しょうがないっちゃねえ、愛ちゃんアレいっとく?」
「ほやね。みんなー、アレお願ーい!」

その声に、カウンター席の反対側の端に座っていた子と、奥のテーブル席に向かい合って座っていた二人組の女の子が、マスターに微笑んで頷く

やがて聴こえてきたメロディー。
いや、耳に聴こえてきたというよりは、まるで心の中に直接メロディーが響いてくるようだ。
この、涙出る程の癒しの調べ。
この、胸打つ程の魂の歌。
さっきの弱気な自分はどこへやら、なんかまだまだやれそうな気分だ。
何なら、踊りだしたいくらい変われそうな自分がいる。

「どうですか?元気出てきました?」

すごいなぁ、音楽ってこんなに人を元気にさせる力があるんだ

「元気にするだけやないと。喜んだり悲しんだり笑ったり、歌には、音楽には色んな力があるっちゃ」

不思議なもんだなぁ。でも歌って素晴らしい!今の曲の名前、知りたいな

「そうですねえ…“SONGS”とでも言いましょうか。また聴きたかったら、いつでもいらして下さいね!」

すっかり気分も晴れやかに、お代を払って外へ出る。
月明かりの下で咲き誇る桜に、自分を重ね合わせる。新人に色々教えてやらなくちゃ…よし、月曜日から頑張ってみっか!


参考書を開きながら、今までの様子を不思議そうに見ていた女子高生が口を開く

「今のお客さん、音楽なんか流れてへんかったのに何であんな事言うてたんですか?」
「みっつぃーあれはね、あーし達の力で奏でた歌やよ。力を使う対象の人にしか聴こえんの」
「えーすごい!どうやってはるんですか?」
「あーしが心を読んで、その人の感情のツボになる言葉を見っけてなあ」
「さゆみがその言葉に癒しの波動を与えるの」
「絵里の風は言葉を震わせてメロディーを付けてるんだよ」
「私が歌になった言葉をその人の精神に直接伝える」
「で、れーなはそれぞれの力を増幅させると」
「すごい!格好良いですねえ~。愛佳もお手伝いしたい!」
「ほやね、みっつぃーはどうしよっかなぁ…」

カランコローン

「あー小春ぅ!」
「せや!愛佳が予知した明るい未来を久住さんが念写して、歌に映像をつけるのってどないですか?」
「それいいっちゃね!まるでプロモーションビデオみたいやけん」
「あれえ?みんな楽しそうに何の話ですかぁ?小春もぉ~!」

――あなたの心に響く歌に必ず出会える。そして、ここでしか出会えない。
夢見ることの出来る仲間たちと、こんな歌で笑おう――

喫茶リゾナントは皆様のお越しをお待ちしています

YES!Let's sing a song



最終更新:2014年01月17日 14:42