(40)146 『トレインジャック』



年始なのにというべきか、年始だからというべきかその列車の座席は空いてすいていた。
リゾナンターの新垣里沙と亀井絵里が乗車していたのは、2番目の車両だった。

「イーッ」黒覆面を被った男達が先頭の車両に乗り込んで行く。
彼らは運転席を目指しまっすぐ歩いていく。
しばらくして今度は黒いドレスを着た女が乗り込んできた。
あの女はミティ!
ダークネスの幹部が戦闘員を引き連れて乗り込んできたのだ、只事じゃすまない。
これは大変なことになったのだ。
一刻も早くこの事態を仲間に報せなくては、それに一般人の乗客を降ろさなくては、と里沙は思った。
次の駅が近づきスピードが落ちてきたので、隣で呑気に眠っている絵里を揺さぶって起こした。
「カメ、大変だよ」
「ガキさん、一体なんですか? 降りるのはまだ先じゃないの」
眠そうな目で腕時計を見て、絵里は不機嫌そうにつぶやいた。
「ダークネスが何か企んでるみたいなのよ」
そのときだ、戦闘員たちが一斉に動き出したのは。

間に合わなかったか、里沙はダークネスの悪行を阻止できなかった自分の無力さを責めた。
ああ、新年早々、何てことなの。
こうなったら、他の乗客の身の安全だけは守らないと。
「ねえガキさん、なにやってんのあの人達。 なんで運転席の方で固まってるの?」
 寝ぼけ声で絵里が言った。
「列車ジャックに決まってるでしょ、ねえカメお願いだからしっかりしてよ、今はあんただけが頼りなんだから」
ミティ達に気づかれない様に里沙はささやいた。


「で、どうするの」
「私の推測だとおそらく奴らは運転手に行き先の変更を指示する筈」
「でも、これ電車でしょ。 行き先を変えるってちょっと難しいんじゃないの」
「それなら、ダイヤを無視した運行で交通網を混乱に陥れるのが目的かも。 悪の組織はどんな手段を使ってでも世の中の平穏を乱そうとするものよ。 
 あるいは乗客を人質にとって身代金を要求するつもりかも。 もしも要求が受け容れられなければ見せしめに人質を一人ずつ!!
 許せない、何て卑劣な奴らなの」

運転手は勇敢だった。
黒覆面を被った戦闘員達に迫られながら、懸命に己の職務を全うしようとしていた。
戦闘員達が乱暴になる。
まだ運転手に直接暴力を加えてはいないものの、威嚇するように運転席付近を足で蹴っている。
里沙がその様子を見ながら気を揉んでいれと、「ウキィーッ」運転手が白い歯とめいっぱいピンクの歯茎を剥き出しにして叫んだ。
意外な反撃にあっけにとられている戦闘員達に向かって運転手はウキキキッと叫び、乱暴に蹴られていた運転席の背凭れを蹴られていた以上の乱暴さで叩きかえした。

「イーッ」戦闘員が叫んだ。
「ウキィーッ」運転手が叫んだ。
「イィーッ」戦闘員達が同時に叫んだ。
「ウキキキィーッ」運転手が叫んだ。
「しまった、これはお猿の電車だ」 ミティが叫(ry


お猿の運転手の奮戦の甲斐もあって、列車はダイヤを守り駅に着いた。
バツが悪そうにミティと戦闘員達もぞろぞろと降りていく。
作戦失敗の責任をなすりつけ合いをするように、小突きあいながら。
かくして一人のいや一匹のヒーローの活躍によってダークネスの悪事は防がれ、日本の平和は守られた。

「リゾナントに帰ろっか、カメ」
「平和ってイイですよね」



最終更新:2014年01月18日 15:13