(40)150 『20センチの決心』



「―――いらっしゃいま、って、えええええっ!?」

ドアを開けて現れた人を見て、思わず大声を上げてしまった。
店内、誰もおらんで良かった。お客さんおったらビックリさせてしまう。

「えへ。切っちゃった」

長かった髪を20センチは切ったんだろうか。
彼女は、ガキさんは、肩より上まで短くなった髪の毛を手櫛でかき上げてこっちに見せる。

切りたいなー、とは冗談交じりに昔から言ってたけどさ。
まさか2、3日会わないうちに切っちゃってるなんて思ってもいなかった。

「いやあの、なんや、思い切ったなぁ…」
「新しい1年、気合い入れてこうかなって思って。
 あたし、今年も頑張るぞー、って気を引き締めるって意味でもね」

似合う? と髪を揺らす。あーしはうなずくしかない。似合う。メッチャ似合うよ。
んでも、見慣れてないからかすっごい違和感がある。

「でもねーなんかもったいなくてさ、切った髪の毛、ちょっとだけ持って帰ったんだ」

その言葉に思わず声が出かかったけど、思い直して言うのをやめた。
代わりに、髪の毛振り回して戦うガキさん好きやったけどなぁって言ったら、ちょっと怒られた。

切った髪をちょっと分けてもらおうか、なんて思ってた。お守りにしのばせて。
だけどよーく考えたら、それって形見を持ってるみたいでどうもいい感じがしない。
ガキさん、ここにおるんやし。心細いときは手をつなぐことだってできる。

年明け早々の大変身。きっと迷って悩んで、けど思い切って決心したこと。
今年のガキさん、今まで以上に頼りになりそう。なんや、あーしも負けてられんよ。
手を伸ばして茶色い毛先を指でつまんだら、ガキさんは得意げに微笑んでいた。



最終更新:2014年01月18日 15:13