(25)466 『蒼の共鳴-Like a star in the dark-』



最初の頃はさ、無愛想だし態度悪いし…内心、ちょっとムッとすることもあったよ。
でも、守るべきモノを亡くしてから変わったね、すごく素直で…心が強くなったよ。

自分は役立たずだ、なんて言って暗い目をしていたこともあったね。
あの子のおかげで成長したのが、とても嬉しかったなぁ。

いつも、皆の気持ちを和ませてくれてたよね。
その明るさに、あたしだけじゃなくて皆救われてたよ。

苦手なことを一つ一つ努力して克服していたよね。
一生懸命頑張る姿に、あたしも頑張んないとなって思ったんだよ。

仲間のこと大切に思ってるからこそ、動けなくてうじうじすることもあったよね。
でも、今のキミなら…迷わないで飛び込んでいけるよ、あたしが保証する。

最初は能力使って戦うこと、すごく怖がってたよね。
でも、今は…あの頃じゃ想像も出来ないくらい、頼もしくなったよ。

何処か人と距離を置いて接してたキミは、いつの間にかすっかり皆と深く打ち解けてたね。
あの日一緒に見た朝焼け、今も覚えてるよ。

戦いの時はしっかりしてるくせに、ちょっと空気悪くなると途端に何も言えなくなってたよね。
今じゃ、すっかり一人前のリーダーになったの、自分のことみたいに誇りに思うよ。

会いたい、なぁ。
皆に、会いたいなぁ。
皆とずっと一緒にいたい、よ。


―――もう、絶対に叶わない願いだって、分かってるけれど。


其処は、例えるならば光の届かぬ海底のようだった。
己が此処にいるという知覚すら容易ではない、重く深い黒だけの世界。

時の経過も、微かな物音すら分からない。
知覚しようとすればする程、己の感覚が曖昧に融け消えていく。
時折、極僅かに差し込む光は一瞬にして闇に呑まれ、消失した。

闇以外何もない、この世界。
果てなく続き、広がる、重々しくも何処か安寧すら感じる空間。
夜の闇の如く、畏怖と安らぎを覚えるのは何故だろうか。

この闇は“創られた”ものではなく、最初から此処に広がっていた。
誰もが持ちうるものでありながら、決してその存在を知覚することは叶わない。

深層意識の最深部。

其処に、新垣里沙はいた。

四肢を鎖に縛られた里沙は身じろぎ一つしない。
瞳から生気は一切感じられず、頬には幾筋もの涙の跡が残っていた。

“仲間達”と引き離された翌日、里沙は“海上の牢獄”へと強制連行された。
其処に居たのはかつて志を共にしていた仲間であり“師”でもあった、吉澤ひとみだった。

吉澤の姿を捉えた瞬間、心臓に氷を押し込まれたかのように胸が冷えた。
彼女がそこに居ることの意味、それを瞬時に悟った里沙は必死に抵抗を試みたが。

片や“ダークネス”きっての精神系能力者である吉澤と、一般の能力者程度の力しか持たぬ里沙。
ましてや、里沙は―――仲間達から引き離されたショックから立ち直れていない状況。


どちらが先に相手の精神を“支配”するか。
吉澤の“催眠-ヒュプノシス-”、里沙の“精神干渉-マインド・コントロール-”。
いずれも精神系能力ではあるが、吉澤の能力は里沙のそれよりも上位。

勝負は一瞬で終わった。

圧倒的な力で瞬時にねじ伏せられた里沙の精神は、吉澤の手によって此処に縛り付けられた。
弱り切った里沙の精神は浮上することなど叶うわけもなく、ただ、此処で己が消失していくのを待つばかりであった。

己が徐々に、ジリジリと緩やかな速度でこの闇と同化していくのが分かる。
だが、それを理解していながらも、里沙は何もしようとはしなかった。

否、当初は四肢に力を籠め、己を繋ぎ止める鎖を引き千切ろうと足掻いていたのだ。
時が経過し、己が此処にいるという知覚は徐々に曖昧になり…やがて、里沙は動くことを止めたのだった。

何かを望んでも、それが叶うことなどない。
両親は自分を得体の知れない輩へと引き取らせようとしたし、大切な人は“翼”をもがれてしまった。
やっと心が通じ合った仲間達とは、もう二度と会うこともないだろう。

失ったものは、元には戻らない。
二度と両親と共に生活することはないし、あの人の翼は永久にもがれたままだ。
仲間達は緩やかに確実に、自分のことを忘れて生きていくに違いない、
再び出会うことなど…ましてや共に同じ道を歩み生きていくことはもう、絶対に有り得ないのだから。

そして、今度は。
己が消えて、何もかもが終わる、一切全てが無に還る。それだけのことだった。


諦念が里沙を支配する。
何を望んでも叶わぬのなら、何も変わらないのなら、いっそ。
此処で潰えて消えていく方がいいのかもしれない。

里沙は気付いていなかった。

今の里沙は、吉澤の手によって負の感情を増幅された状態である。
元々、内に抱えていた里沙の感情を、精神系能力の使い手である里沙にすら知覚出来ない程鮮やかにコントロールし、思うがままに導いたのだ。
正常ではない精神状態であることに気付かぬまま、里沙はこの闇に身を委ねる。

不意に、淡い光が闇の中に差し込んできた。
その光はスーッと、里沙の前まで伸びてくる。
光は里沙の前に一直線に伸びながら、徐々に“人”の形へと変化していく。

里沙の目の前に立つのは、薄汚れたワンピースを纏った少女だった。
その容貌は里沙と酷似しているが、明らかに少女の方が里沙よりも幼い。


『起きないの?
あんたの大切なもの、もうすぐここにくるよ』


容姿に見合わぬ、低く何処か怒気を孕んだ声が里沙の耳朶を打つ。
言葉の意味がじわじわと、潰えかかった里沙へと染みこんでいく。

その瞬間、里沙はゆらりと揺れながら立ち上がった。

少女を睨み付けながら、里沙は必死に四肢に力を籠めた。
己の身を縛り付ける鎖を引き千切ろうと、全身に力を漲らせていく。
先程までの死人のような姿からは想像もつかない程、里沙の瞳はギラギラと輝きを放つ。


だが、鎖は千切れない。
しばらくの間足掻いたものの、やがて両肢から力が抜け、里沙はその場に膝を折った。
悔しさに歯噛みする里沙に向かって、少女は再び声をかける。


『そこで見てればいいよ。
あんたの大切なものが“あんた自身”の手で引き千切られて死んでいくのを』


必死に足掻く里沙を嘲笑いながら、少女は闇から浮上していく。
少女の放った言葉に、再び里沙は立ち上がり足掻き始めた。

決して、そんな真似はさせない。
この鎖を引き千切ることが出来れば、少女を―――吉澤の手によって“分けられた”もう一人の自身を止めることが出来る。

膝を何度も折りながら、その度に里沙は立ち上がる。
しかし、里沙の想いとは裏腹に徐々に体は重くなり、立ち上がるまでに間が空くようになってきた。

刹那、闇の中に“ビジョン”が浮かび上がる。
地面に片膝をついたまま、里沙の視線はそれへと釘付けになった。
“表層”へと浮かび上がっている、もう一人の自分が見ている光景がそれには映し出されていた。

里沙の双眸から大粒の涙が溢れ出す。
ビジョンに映るのは、会いたいと切望した仲間達の姿だった。

皆、里沙を見て驚いているようだった。
その動揺は、里沙が無事だったからではないことは、此処にいる自分が誰よりも分かっている。

吉澤の手によって分けられた、もう一人の自分。
―――里沙が心の中に抱えていた闇を切り離して、人格を与えた結果、生まれた存在。


此処にいる自分だからこそ分かる、内から溢れ出す禍々しい闇のエネルギー。
自身ですら、これほどの闇を内包していたことに動揺しているのだ、
目の前で突然変貌した自分を見せられた彼女達の動揺は計り知れなかった。

動揺する彼女達に向かって、もう一人の自分が言葉を発する。
その言葉は、此処で身動きの取れない里沙の耳にも届いてきた。


『あたしは、新垣里沙の心の闇を凝縮して生まれたの。
あんた達の知っている里沙は、もういないよ』


その言葉に、里沙も彼女達も息を呑んだ瞬間だった。

もう一人の自分は、全身から凄まじい闇のエネルギーを放ちながら彼女達へと飛びかかった。


     *    *    *


―――速い!

高橋愛はその拳を避けながら、後方へと飛ぶ。
だが、そうなることを予測していたかの如く、“彼女”はさらに踏み込んで距離を詰めてくる。
掌にエネルギーを集中し、突き出された拳を受け止めながら愛はその勢いを利用して十数メートル後方へと飛んだ。

愛が空を舞う間に、ジュンジュンとリンリンは彼女に向かって念動刃を飛ばしていく。
体勢を立て直す暇を与える為に、そして、牽制のために二人が放った念動刃は壁に当たって消失した。

八人の仲間達は、彼女を取り囲むように立っていた。
だが、誰一人として彼女に向かって飛びかかっていくことが出来ずにいる。
彼女が攻撃を仕掛けてくる度に、全員が協力し合って一定の間合いを取れるように牽制する。


八人は激しく動揺していた。
目の前に立つ彼女を救う為に来たというのに、救うべき対象が“敵”であるという矛盾。
一体どうしたらいいのか、誰も答えを出せずにいた。

彼女が本当に敵であるならば、倒さなければならない。
超能力組織ダークネスを打ち倒す為に戦うと決意した以上、ここで潰えてしまうわけにはいかないのだ。

―――しかし、彼女は“共鳴因子”を持つ仲間だ。

仲間を倒さなければならないのか。
一度決めたはずの心が揺らぐ、意思が崩れ落ちそうになる。

八人の動揺に止めを刺すかのように、彼女が再び口を開く。


「…いつまでもこうしててもしょうがないし…。。
そろそろ本気で…あんた達を、殺す」


宣言と共に、彼女の体から凄まじいエネルギーが吹き出した。
その闇色のエネルギーこそ、彼女が敵になってしまったという証。
頭では理解していた、だが、感情は追いつかない。

それこそが、命取りだった。
彼女は一瞬で道重さゆみの背後を取り、頭部目がけて強烈なハイキックを繰り出す。
さゆみの体が吹き飛んだ、それを七人が認識する頃には彼女は次の標的を定めて動き出している。

次の標的はジュンジュンであった。
防御の構えを取るよりも先に、ジュンジュンの鳩尾には重い衝撃と共に拳がめり込んでいた。
その場に崩れ落ちていくジュンジュンを見て、惚けていた仲間達の意識はようやく切り替わる。


戦わなければならない。
戦って、彼女を打ち倒さねばならない。

だが、その決断は余りにも遅すぎた。

先程の“死闘”でかなりのエネルギーを消耗した“リゾナンター達”と、全く消耗していない彼女。
人数だけで言えばこちら側が有利だった。
しかし、精神的動揺から完全に立ち直れていない自分達と、そんなものは微塵にも感じていないであろう彼女とでは人数差など有って無いようなものだ。

一人、また一人。
果敢に挑みかかるも一撃で地面に沈められていく。

一撃一撃がひどく重い。
それは、他ならぬ彼女からの攻撃だからだろう。

歯を食いしばりながら、八人はゆっくりと立ち上がっていく。


胸を切り裂く悲しみをのせた八人の咆吼が辺りに木霊した。


     *    *    *


「…うああああ!!!!」


里沙の絶叫が闇の中に響き渡る。
繋がれた鎖を断ち切らんばかりに全身に力を籠める、
その視線の先にあるビジョンには仲間達が傷付き倒れていく姿が鮮明に映し出されていた。

どれだけ傷つけられても、その度に立ち上がってくる仲間達の姿が里沙の胸をかき乱す。


何故、仲間達と戦わなければならない。
―――ソレハアンタガヨワイカラダ
どうして、傷つけ合わなければならない。
―――アンタニハナカマナドヒツヨウナイ

闇に響く低い声が、里沙を追い詰めていく。
目に映る光景が、里沙の心を強く激しく切り裂いていく。


「もう、やめて!!!!」


里沙の叫びが闇に木霊する。
だが、それをかき消すように低くおどろおどろしい声が重なる。


『あんたには仲間なんか必要ないの』

『誰もあんたなんかを必要としてないよ』

『あんたは弱い』

『あんたがいなければ誰も傷付かずに済んだんだ』

『あんたなんか消えてしまえばいい』


響き渡り木霊する声は、徐々に重なり合いより大きな声へと変わっていく。
耳を塞いでも、その声は里沙の中に染み渡っていく。


ズブリ。

里沙の足が闇へとめり込む。
声が大きなものに変わる度、里沙の体は闇へと緩やかに飲まれていく。

深層意識に取り込まれる、すなわち、それは里沙という人格の消失に他ならない。
里沙は今まさに、消えていこうとしていた。

必死に足を引き抜こうと足掻きながら、里沙は拒絶の声をあげる。


「違う、あたしにはあの子達が必要なの!
例え、あの子達があたしを必要としてなくても構わない!
あたしは弱いし、あたしのせいで傷付いた人は沢山いる、だけど!
…あたしは消えたくない、ここで消えたら皆傷付いたままだから!」


里沙の声に、一瞬だけ声が止まる。
そのことに里沙が安堵した瞬間だった。

先程とは比べものにならない声が辺りに轟き木霊する。
里沙の想いを否定するかの如く、里沙自身を拒絶するかの如くその声は強い怒気を孕んで響き渡る。


『まだ分からないの?』

『罪のない人間の心を己の思うがままに傷つけてきたあんたには仲間を欲する資格はないんだよ』

『彼女達もあんたのような裏切り者なんて必要だと思ってない』

『弱いあんたが生き続けたところで、何の意味もない』

『あんたはあんた自身のエゴのままに、これからも他人を傷つけるつもりなの?』

『あんたなんかいなくなればいい、誰からも必要とされないあんたなんか』

『消えろ、消えろ、キエロ、キエロ!!!!!!!』


闇の濃度が高くなる。
里沙を飲み込んでしまわんばかりに、凝縮されていく。

再び、己の体が闇へと沈み込んでいく感覚を覚えながら、里沙は闇に向かって叫び声をあげる。


「助けて、誰か……!!!」


その声は闇を突き抜けることなく、かき消された。


     *    *    *


体が鉛のように重かった。
幾多の打撃を受け続けた体は先程から悲鳴をあげ続けている。

光井愛佳はよろけながらも立ち上がり、背後にいる久住小春を庇うように両腕を上体の前で交差する。
刹那、闇色のエネルギー弾が腕に命中し、愛佳の体は衝撃と共に弾き飛ばされた。


「みっつぃー!!!」


小春のあげた声に、愛佳は息も絶え絶えに応える。
小春を守らねばならない、その意思だけで愛佳は再び立ち上がる。

その気配を感じながら、小春は歯噛みするしかなかった。
先程の死闘で小春の視力は失われ未だ回復していない、それを知っているからこそ愛佳は小春への攻撃を全て受け止め続けているのだ。

目が見えれば、愛佳の足手まといにならずに済む。
自分が受けるべき傷も、愛佳に追わせずに済むのだ。


(目が見えないくらいなんだ!見えないなら、他の感覚で補えばいい!)


小春は聴覚を研ぎ澄ます。
叫び声と、エネルギーとエネルギーがぶつかり合う音。そして、微かに聞こえる彼女の足音。

頬を伝うものが何なのか理解することを拒絶しながら、小春は彼女の方へと駆け出す。


「これ以上、皆を傷つけさせない!!!」


叫び声と共に、小春は彼女の気配がする方向へと紅い電撃を放つ。
光と変わらぬ速度の電撃、かつ、至近距離。

小春の電撃が彼女を捉えたかに思えた。


「…遅い」


その声が鼓膜を振るわせるのと、己の体が地面に沈むのはほぼ同時だった。
上体に広がる、熱い衝撃。
骨が軋み、内臓にまでその衝撃は伝わる。

喉を何かが逆流する感覚と共に、小春の口から赤黒い血が吐き出された。


「久住さん!」

「小春!」


遠くからあがる仲間達の声、そして、その方向へと向かう足音。
奥歯を噛み砕かんばかりに噛みしめながら、小春はゆっくりと立ち上がる。

―――再び、小春は彼女へと攻撃を加えるために駆け出した。


     *    *    *


『ねぇ、覚えてる?
あんたは忌むべき存在だって、両親があんたを部屋に監禁した時の事』

『あんたは幼かった、純粋だった。
己が持つ力を使えば、状況を変えてしまうことなど容易いことに気付かぬままだった』

『馬鹿正直に、力を使わなければ両親は自分の存在を許し、以前のように楽しく生活が出来ると信じていた。
だが、どうだった?
両親はあんたをついに許すことはなかった、そして、あんたを捨てようとした』

『あの銀色の光を纏った女は可哀想ね。
あんたを拾わなければ、今もその光を失うことなく生きていられたのに』

『あんたは何も欲しがっちゃいけないの。
あんたが何も望まず誰の手も取らずに孤独を選べば、過去はともかくこれからは誰も傷付かないんだから』


忘れたい記憶。
もう一人の里沙はそれを容赦なく掘り起こして、里沙へと突きつける。

里沙を消し去り、己がこの体を支配する。
その為に、もう一人の里沙はひたすらに里沙を傷つける。


(そう、なのかな…?)

(あたしが消えれば、それで終わるのかな…?)

(もう、誰も傷つけたくないよ…)


里沙の頬を涙が伝う。

既に、里沙の体は腰まで闇にのめり込んでいた。
闇は徐々に、そして確実に里沙の体を取り込もうと迫り上がる。

里沙の目に映るビジョン。

仲間達はもう一人の里沙の攻撃に、完全に沈められてしまっていた。
指先一つ動く気配すらない。

床に広がる、緋。
その量は夥しく、そのまま放置すればもう、確実に死に至るであろう事は容易に想像出来た。

理解している。
だが、この体はもう闇に半ば取り込まれ、浮上することが出来ない。


『…本当、しぶとかった。
だけど、もう終わりにする。
あんたも、あいつらも消えてなくなればいい』


もう一人の里沙の声が闇に、そして現実の世界に響く。
床に横たわる八人の方へと手を翳す気配、そして凝縮していく巨大なエネルギー。


「やめて!!!!!」


里沙の叫び声が闇を揺るがす。
必死に藻掻いてそれを阻止しようとする里沙を無視するかのようにエネルギーが放たれようとした、その時。

ビジョンが揺らいだ。

そして、揺らぎが収まり…映し出された光景に里沙は息を呑む。


「保田さん…それに、まこっちゃん!?」


所々紅い血に染まった白衣を靡かせた保田圭、肩で息をしながら里沙を見つめてくる小川麻琴。


「…いつまで寝てるつもり?
あんた達、あたしと約束したわよね…ダークネスを倒して、この世界に光を掲げるって。
それは嘘だったわけ?」

「保田さん!」

「…小川、黙ってな。
あんた達、このまま終わっていいと本気で思ってるの?
新垣を助けにきたんでしょ、あんた達は!
あんた達がここで諦めてどうするのよ!」


制止に入った麻琴の声を遮るように続けられた圭の声に、微かに反応する八人の体。
もどかしくなる程緩慢な速度で、八人の体は立ち上がるべく動き出す。

八人の体が動き出したのを圭が確認したのと、血まみれの能力者達が部屋に乱入してきたのはほぼ同時だった。
死ならば諸共、そう言わんばかりに突撃してくる能力者達に拳を叩き込みながら圭は叫ぶ。


「…新垣の心はまだ死んでない!
それは、あたしよりもあんた達の方がずっとよく分かってるはずよ。
―――新垣を救い出しなさい!」


満身創痍の八人の視線が、ビジョンを通じて里沙の視線と交錯する。
里沙は八人に向かって力の限り叫び声を上げる。


「…あたしはここにいる!!!!」


―――里沙を飲み込もうとしていた闇が、僅かに、しかし確かにたじろいだ。


     *    *    *


「皆…!」

「うん、聞こえた」

「ガキさんは生きてる!」


里沙の絶叫は、一瞬だが確かに深層意識の闇を切り裂いて表層へと浮かび上がっていた。
共鳴因子が八人に希望を与える。

新垣里沙の心は、確かに生きている。

満身創痍の八人の体に、沸々と湧き上がってくる希望、そしてエネルギー。
先程までとは様子の違う八人の姿に彼女は少し驚いているようだった。

高橋愛は七人に、“精神感応-テレパシー-”を用いて声をかける。


(あいつは、里沙ちゃんの心の闇を切り離して出来た人格、って言ってた。
なら、みっつぃーの“心の浄化-ハート・プリフィケーション-”の能力を使えば、
あの人格を打ち消して里沙ちゃんを呼び戻すことが出来るはず!)

(それは分かったけど、愛ちゃん、どうすると?)

(みっつぃーのあれって、発動するまでに時間がかかるんだよね?)

(みっつぃー以外の七人で何とかガキさんの動きを止めて、その間にみっつぃーがエネルギーを溜めて発動するしかないの)

(待って、みっつぃーだけのエネルギーじゃ足りないかもしれない)

(確カに、今の私達は全快ジゃナい…発動すルまで食い止めラれるカ分からナいし、光井サンだケのパワーで大丈夫トいう保証モなイ)

(…なラ、どウするンでスか?)


七人の心の声に、愛佳が呟く。


(愛佳に策があるんですけど…戦いながらでいいんで、皆、聞いててください)


愛佳の言葉に七人が同意の声をあげる。
焦ったように八人の方向へと飛び出してきた彼女の攻撃を避けながら、愛佳の声が七人に届く。


(まず、このまま肉弾戦やってたら発動することが出来ても新垣さんに避けられる可能性が高いです。
だから、誰でもいいんで…新垣さんを挑発して、能力戦へと持ち込んでほしいんです)

(なら、それはあーしがやるわ。
多分、皆の中で一番力が残ってるのはあーしだろうし)

(エネルギーとエネルギーのぶつかり合いによる相殺合戦、その隙に残った人間のパワーを愛佳に注いでほしいんです。
愛佳一人じゃ足りひんくても、皆の力が合わさった心の浄化ならきっと、新垣さんの心の闇を払えるはず)


愛佳の言葉に、全員の意思が統一される。
標的を定めて飛びかかってくる彼女を牽制しながら、徐々に狙い通りの態勢へと陣形を整えていく。

愛を先頭に、そこから少し離れた位置に愛佳を中心に据えた円陣が組まれた。

愛佳の提案は一か八かの賭けと言ってもいい、無謀な策だった。
愛が相殺に失敗したら、なし崩し的に他の皆もその攻撃に晒されてしまう。
仮に自分達が全快の状態で応戦したとしても、上手くいく保証などない。
それだけ、今の彼女が全身から放つエネルギーは凄まじいものだった。

愛の心が微かに震える。
この策の最重要ポイントを担う愛は、短い間隔で何度も呼吸を繰り返す。

失敗したら、全員死ぬ。
里沙を救えぬまま、圭との約束も果たせぬまま。

一瞬だけ聞こえた里沙の叫び声が愛の、そして仲間達の心を奮い立たせていた。

闇の中で必死に藻掻き、戦っている里沙の声。

―――ここで、何もしないで終わるわけにはいかない。


「…凄い力やな、でも…それじゃ、あーし達は倒せんよ。
試してみてもええよ、その闇のエネルギーであーし達全員消し去れるか」


愛の挑発に、空けられた距離を詰めようとしていた彼女の動きがピタリと止まる。
その言葉の意味を反芻するように、愛達へと視線を向ける彼女。


(お願い、上手くいって!)


焦燥が募る。
ドクドクと脈打つ心臓の鼓動が煩くて仕方がなかった。

彼女の表情が徐々に変化する。
抑えていた怒気が噴出したような表情に、愛は両腕を前へと突き出した。


「…消してやる、全部消してやる…あたしの邪魔をする奴は全部全部消してやる!!!」


叫び声と共に、彼女の体から巨大なエネルギーが愛達めがけて放たれた。

愛は息を吐き出すと共に、今の己に出せる最大限のエネルギーを解き放つ。

闇と光。

彼女が放つ闇のエネルギーと、愛が放つ“光使い-フォトン・マニピュレート-”のエネルギーが衝突する。

それが、開始の合図だった。
愛佳が集中を開始すると同時に、残った六人は彼女へと己のエネルギー全てを注ぎ込み始める。


巨大なエネルギー同士のぶつかり合いに、海上の牢獄が軋む。
彼女から放たれる凄まじい闇のエネルギーに、愛の体が悲鳴を上げる。

愛佳の心の浄化が発動するまでの間だけでいい、絶対に押し切られてなるものか。
噛みしめた奥歯がギリギリと音を立てる。
全身を駆け巡る血が熱くたぎる。

ジリジリと、愛の光は彼女の放つ闇に押され始めた。

だが、愛佳達が準備を終えていない。
気を抜いたら、一瞬で押し切られてしまいそうだった。

愛は片腕を降ろし、服のポケットを探る。

ポケットから取り出したのは、圭に渡されていた能力増幅剤だった。
脳裏を過ぎる圭の声が愛の心を揺さぶる。


『…一応渡しておくけど、なるべくならそれを使わないことを祈るわ。
あんた達は普通の人間とも、あたし達“M”のクローンとも違う。
それがどんな副作用をもたらすか、予測することは不可能と言ってもいい。
もしも、使う時は…よく考えなさい、自分の身に何が起こるか分からなくとも使わなければならないのか』


愛と彼女の視線が交錯する。

大切な仲間を救いたい。
今も闇の中で藻掻きながら、必死に自分達へと手を伸ばしているであろう里沙を助けたい。
そのために、死闘を乗り越えてきたのだ。

遠くから圭が、麻琴が自分達に視線を注いでいるのが分かる。
物言いたげな圭の視線が、愛の背中に突き刺さる。


(…保田さん、これがあーしの答えです)


愛は能力増幅剤を取り出すと、素早く口に含んで嚥下した。
数秒程で、自分の体に力が沸いてくるのを感じながら愛は小さく微笑む。

―――後は、愛佳達を待つだけだ。

後方から感じる、温かなエネルギー。

里沙を取り戻すための“光”が、今まさに生まれようとしていた。


     *    *    *


「…あれは何?」


一部始終を見ていた里沙は、思わずそう呟かずにはいられなかった。

押されていた愛が何かを嚥下した、それから数秒程で先程とは比べものにならない力を愛が放った。
考えられるのは、あれは能力増幅剤の類だろうということ。
そして、そうした類の物は効き目が強力である代わりに、身体に何らかの影響を及ぼす可能性が極めて高い。


「…何でそこまでするのよ…。
あたしなんかのために…」


里沙の呟きが闇に融けていく。
満身創痍の八人の姿がぼやけていく。


涙が頬を伝い、こぼれ落ちる度に里沙を飲み込みつつあった闇が少しずつたじろいでいく。
そして、先程まで届くことの無かった声が闇の中に響いた。


『もうちょっとやから、待ってて、里沙ちゃん。
後ちょっとで、そこから助け出すから』

「馬鹿、何でそこまでするのよ!
失敗したら皆死ぬのよ、それなのに」

『何でって、そんなこと決まっとるやろ。
―――里沙ちゃんは、あーし達の大切な仲間だからだよ』


闇を突き破って聞こえてきた愛の声に、闇に取り込まれかけていた里沙の心に光が差し込み始める。

それは、とても温かかった。
狂おしい程に切望していた、温かさだった。


『…そんなことさせない!
あんた達もあいつも消し去って、あたしがこの体を手に入れる!』

「!」


もう一人の里沙の声が闇に響いたのと同時に、里沙の体が闇へと再び沈み始める。
闇の中で、もう一人の里沙の声が木霊し始めた。
必死に話しかける愛の声をかき消すように、その声は闇の中に強く響き渡って木霊する。

足下から引きずり込まれるような感覚に、里沙は必死に抗う。
だが、幾ら力を籠めても指先一つ動く気配すらなかった。


もう、駄目かもしれない。

光が差し込みつつあった里沙の心が、再び闇に覆われようとしたその刹那。


『そい、つの声、に耳を傾け、るな!
あーし、の、あーし、達の呼、ぶ声だ、け聞け!」


暗く重い音の奔流の中で、途切れながらも聞こえてきた愛の声。
闇に飲み込まれつつあった里沙は、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。

それは、黒く塗りつぶされた世界で微かに瞬く光のようだった。
弱々しく、闇に押しつぶされてもおかしくない、だが確かに煌めく光。

一つ一つの輝きは、小さなものだった。
だが、それらは懸命に輝きを放ち、里沙を導く。


『ガキさん、もうちょっとだから、頑張ると…!』

『大丈夫だから、絵里達、絶対ガキさんを助けるから…!』

『キツい…だけど、ガキさんも頑張ってるんだもん、負けないの!』

『新垣さん、あたし達が絶対に助けますから!』

『愛佳達のこと、信じてください!』

『新垣サン、絶対、大丈夫!』

『私達がツいてマす、新垣サン、独りジゃナいでス!』


少しずつ、その声は大きくなる。
暗闇をかき消すように響きだした声に、里沙は目を伏せる。


『辛かったやろ…でも、もう独りで苦しまなくてもいいんだよ。
苦しい時も、辛い時も…どんな時でも、あーし達が傍にいるから』

『うるさい、うるさい、うるさい!!!
黙れ…黙れええええええ!!!!!』


里沙を飲み込もうとする闇が、少しずつ変化していく。
先程までの勢いは消え、半ば取り込まれていた里沙の体は僅かな自由を取り戻す。


ふと、空を仰ぐように闇を見上げた、その先には。

―――美しい、虹色の光が輝いていた。


     *    *    *


「高橋さん、もうそろそろいけます!」


愛佳の声が愛の耳を打つ。
愛は両腕に力を籠め、彼女の放つエネルギーを完全に相殺するべく更に己の体から力を放つ。

ジワリジワリと、愛の放つ力が彼女のそれを押しつぶしていく。
形勢が逆転しつつあることに、彼女は動揺を隠せないようだった。

再び彼女が勢いを盛り返す前に発動させなければならない。
愛は首だけ愛佳の方に振り返る。

言葉はもう、いらなかった。


「「「「「「「「いっけええええええええ!!!!!」」」」」」」」


八人の咆吼と共に、虹色の光が彼女目がけて放出される。
愛の放つエネルギーの相殺に追われる彼女は、その光を避けることは叶わない。

光が彼女を包んでいく。


愛も、他の仲間達もその場に膝を付く。
全エネルギーを注いだ浄化の光、これで駄目だったらもう成す術は何一つ残されていなかった。

祈るように八人は彼女の方を見つめる。

それは、ほんの数十秒にも満たない時間だった。
だが、八人にとっては気が遠くなる程長い時間だった。

彼女が地面に膝をつく。

―――何かを言いたげに八人の方を見つめてくる彼女は、まるで泣いているようだった。


     *    *    *


虹色の光が闇を照らしだした。
温かな光はゆらゆらと揺れながら、確かに里沙を照らし出す。

後はもう、この光に身を委ねれば帰れるはずだ。
里沙は光を見上げ―――ゆっくりと、振り返る。

闇の中に佇む、幼い少女。

里沙は一歩、少女に歩み寄る。
怯えたような目で里沙を見つめてくる少女は、一歩退いた。


『あたしを消すんでしょ。
いいよ、あたしの負けだもの』


双眸から溢れ出す涙が痛々しかった。

里沙を苦しめ続けた闇。

里沙は少女の姿を見つめながら、ふっと息を吐いた後、小さく微笑んだ。
そっと、右手を少女の方に差し出しながら里沙は口を開く。


「…消さないよ。
一緒に行こう、あんただって確かに、あたし自身なんだから」


里沙の言葉に少女は驚いているようだった。
決して手を取ろうとせず、ただただ呆然と里沙を見つめてくる少女に里沙はもう一度言葉をかける。


「…苦しかった、ずっと、ずっと苦しい苦しいって独りで藻掻いてた。
自分の力のなさが憎くて、何も変えることの出来ない自分が憎くて憎くてしょうがなかった。
人を傷つけてばっかりで、泣かせてばっかりで、でも、どうすることも出来なくって…。
でもさ…あんたを消すってことはさ、あたし自身を否定することなんだよ。
あたしは、その苦しみを忘れない。
忘れないで、ずっと覚えてる…それがきっと、あたし自身を成長させるために必要なことだと思うから」

『いいの…本当に、あたしは消えなくてもいいの?』

「いいんだよ、あたしがいいって言ってるんだから。
ほら、早くしないと…皆、待ってるよ…あたし達のこと」


催促するように軽く振った手に、小さな掌が重なる。
温かいその手を握りしめた里沙は、光を目指して浮上を始める。

虹色の光が二人を包み込む。

視線を感じた里沙は、少女の方に顔を向ける。
少女は、否、幼かったあの頃の自分は里沙を見つめて微笑んでいた。

光が輝きを増すにつれ、少女の体が少しずつ消えていく。
だが、そのことに里沙は驚くことはなかった。


二つに無理矢理分けられた自分が、少しずつ確かに元の自分に戻っていく。

―――虹色の光が里沙の視界を埋め尽くした。


     *    *    *


視界が滲んでいる。
それは、自分が涙を流しているからだと里沙は気付いた。

徐々に戻ってくる感覚。
そして、里沙を抱き締める温かな温もり。

その温もりは、一人だけのものではなかった。
自分の方へと伸ばされている幾つもの手から伝わってくるその温もりは、あの日感じたものとは全く違う色をしていた。

帰ってきた。

そのことを改めて実感した里沙の耳朶を打つのは、幾つもの啜り泣く声達。


「…何、泣いてるのよ」


泣いてしまう程嬉しいのに、つい強がってしまう。
里沙の声が震えていることに皆気がついているから、誰もそれに対して返事をしない。

静かな空間に響く、幾つもの泣き声。
その声がひどく嬉しいと思うのはいけないことだろうか。


胸を満たしていく温かさに、自然と涙と笑顔が零れる。
ずっと欲しいと思っていた温かさが、ようやく里沙の手中に収まっている。

望むことを止めたのはいつだっただろうか。
望んでも自分ではそれを掴むことは出来ないと、その願いを殺した日。
長い月日を経て、ようやく里沙は望んでいたものを手にしたのだった。

共に歩みたい、共に在りたいと願った仲間達。

全てが解決したわけではない。
あの人は未だダークネスに捕らわれているだろうし、
里沙自身も今後は完全なる反逆者としてダークネスからその命を狙われることになるだろう。

だが、里沙の胸を満たす温かさはそれらに立ち向かう大きな力であり、希望だった。
この温かさがある限り、闇に身を堕とすことなく光を掲げて強大な敵へと立ち向かうことが出来るだろう。

もう、迷わない。

この手を取った、選んだ仲間達の為に戦う。
リゾナンターにもダークネスにも真に所属できずにいた里沙は、この時ようやく一つの道を選ぶことが出来たのであった。


「…何か、言うこと、あるやろ…」


しゃくりあげながら紡がれた愛の言葉に、里沙は服の袖で涙を拭う。

そうだ、まだ何も伝えていない。
何を伝えればいいのだろう、言いたいことは沢山ある。
だが、それをどうやって伝えればいいのか、一体自分は今何を一番に伝えたいのか。

少し考え込んだ後、里沙は息を吸い込んで口を開いた。


「―――ただいま、皆」


里沙の言葉に、一瞬だけ時間が止まったようだった。
途切れる泣き声、そして。


「「「「「「「「おかえり!!!!!!!!」」」」」」」」


海上の牢獄に八人の大きな歓迎の声が響き渡った。


     *    *    *


「へー、よっすぃーのアレを、八人がかりとはいえ解いちゃうんだ…ふーん…共鳴、ね」


ダークネス内部にある監視室に響く、無機質な声。
紺野あさ美は声のした方を振り返って、苦笑を浮かべた。


「そうです、あれが共鳴という現象。
共鳴因子を持つもの同士の意思が重なり合うことで、強大な力が生まれる。
…どうです、あれは?」


あさ美の問いかけに、栗色の髪を靡かせた女性は薄笑いを浮かべる。
一歩一歩とあさ美の方へと歩み寄りながら、女性は口を開いた。


「そうだね…面白い。
で、紺野―――あたしは一体、何をすればいい?」

「そうですね、まずは…内部改革、といきますか。
後藤さんにやってほしいのは、現ダークネス首領中澤裕子及びその側近の抹殺。
私は後藤さんがそうしてくれている間に、得られたデータを分析し、研究を最終段階へと移します」


淡々とした声に、後藤真希の笑いは鋭くなる。
あさ美が真希に告げた内容は、反逆以外の何でもなかった。
それを平然と頼んだあさ美へ、真希は再び口を開く。


「説得してこちら側へ引き込み出来そうな人間以外は全員―――殺ってもいいの?」

「構いません、代わりなんて幾らでも作り出せます…いや、代わり以上になるかもしれませんね、研究が成功すれば」


何処までも淡々とした声に、真希の胸は躍る。

目の前に立つあさ美は、一体何を企んでいるのか。

ただ、分かっていることは―――あさ美の考えていることは、きっと自分にとっても楽しい事だろうということだった。


「よっすぃー引き込めれば余計な手間省けるんだけどね…まぁいいや。
準備が整うまでの期間、あの子達のことはどうするの?」

「そうですねぇ…しばらくは放置しておきましょうか。
“試作品”を作って相手をさせるにしても、少々時間が欲しいので」


真希の言葉に返事をしたあさ美は、白衣を翻しながら監視室を後にする。


―――モニターには、何も知らない九人が再会を喜び合う画が延々と映し出されていた。



最終更新:2014年01月17日 14:45