(25)695 『絶対解ける問題 X=『G』』



20090305 22:40 S区ラボ~拷問室

「グオオオオォォォォォン!」

電撃に晒され、苦しむ一匹のパンダ

「そろそろ白状して下さいよぉ、刃千吏の総本山の場所。パンダさん死んじゃいますよ?」
笑顔を浮かべながら電撃のコントローラーを握る白衣の女・・・Dr.マルシェ
「・・・断ワル」
モニターに映るマルシェを睨みつける鎖に繋がれた少女・・・銭淋
「殺さない、とか思ってるんじゃないですか?でもざ~んねん。
 パンダさんの遺伝子取得と解析は済んだから用済みなんです」
更に電撃のボリュームを上げるマルシェ
「クッ、クワァァァァァァァァァァン!!!」
悲鳴に似た声を上げ、崩れ落ちるパンダ。徐々に人間の女の身体に戻っていく
「あぁ、もう限界みたいですねぇ・・・李純さん」
パンダから人間に戻った少女、李純の身体がビクンビクンと痙攣する。
「獣化レトロウィルスの作成と『守護者』作成の為の遺伝子提供をしてくれた貴方の功績を
 私達ダークネスは決して忘れません。アーメン」
更に電撃のボリュームを上げるマルシェ


「ヤメロ!総本山の場所は話ス!だからヤメロォオオオオオオ!」
絶叫する銭淋
「始めからそう言って下さいよぅ、李純さん苦しみ損じゃないですかぁ」
電撃を止めるマルシェ
「まぁ私も無益な殺生は好きじゃありません。約束は守りましょう」
ニヤリ、と頬笑みを浮かべて銭淋に語りかける
「あ、そうそう、貴方の遺伝子も『守護者』に採用させて頂きました。その功績に免じて、命だけは助けてあげますね」

(済マナイ父上、みんな・・・)
銭淋は唇を噛みしめる。
苦渋の選択~だがこの選択に銭淋は後悔していない。
『御神体』を護ることが刃千吏の最優先の使命
それに・・・
(それに・・・そう簡単に父上達が・・・刃千吏の精鋭達がやられるはずがない!)

そう、やられる筈はないのだ・・・『普通』の相手には


20090307 16:47

「んぁぁ、凄いところにあるんだねぇ、刃千吏の本拠地ってゆうのは」

中国、浙江省の北の天台山を始めとする山々、かなり分け入ったその内の山の一つが
刃千吏の総本山である。近隣の山々には仏教寺院が数多くあり、刃千吏の本拠地も
寺の形を取って偽装されている。
人里離れた山の天辺にある上にこの偽装、それに加え鉄の掟で縛られた構成員達・・・
『組織』の諜報網を持ってもこれまで発見できなかった秘密がここにある。

「ごめんくださぁ~い」

その寂れた山寺に似つかわしくない訪問者、赤い革スーツを着た茶髪の派手な女は
とてつもなく大きな、そして気の抜けたような間抜けな声で自らの来訪を寺の住人
『刃千吏』の精鋭達に告げた。

「何用かな?日本のお嬢さん」

山門に立ち尽くす派手な女に寺院の中から出てきた男が声を掛ける。
壮年の、立派な体格をした髭の男。顔は優しげだが風格と得も知れぬ威圧感が


「んぁ、私『組織』の者なんですが、刃千吏の総帥の銭さんに伝言を頼まれて来ましたぽ」

女の発した『組織』の一言にそれまで様子を伺っていた刃千吏の精鋭達が一斉に姿を現す。

「これはこれは、遠い所までようこそ御出で下さいました。私が総帥の銭です。」

先程、女に声を掛けた髭の男が手を前で組み、頭を下げてうやうやしく挨拶をする。
一見、礼を尽くしているように見えるがその眼光は鋭く来訪者から離さない。

「して、伝言とはどのような内容ですかな?わざわざ直接御出でになるとは余程重大な用事とお見受けしますが」
「んぁ・・・ちょっと待っててください・・・えぇと・・・」

派手な女が、懐をごそごそ漁り始めると周囲の刃千吏構成員達から一斉に『殺気』が発せられた。
しかし、髭の男・・・総帥は目くばせをして、構成員達を制止する。

「これだこれだ・・・おほん!読み上げます」

女は懐から巻いた紙を取り出して広げ、両手で持って表彰状の授与のように読み上げ始める


「拝啓、刃千吏総帥『銭』殿。『組織』の代表としてここに申し上げる。我ら『組織』は先頃、総帥のご息女
 『銭淋』殿と『神獣』の一族、『李純』を交戦の末に捕縛せり・・・」

周囲の構成員達に同様が走る。だが総帥は眉一つ動かさない。

「『銭淋』殿、『李純』は現在、我らが保護下にあり、速やかに引き渡ししたい。但し、両名は我が『組織』の
 構成員と交戦の末に捕縛されたものであり、引き渡しにはそれなりの『代価』を要求したく・・・」

またも構成員達に同様が走る・・・総帥は目を閉じ、ニヤリ、と笑う

おほん、とまた女は咳払いをして再び読み上げる

「要求する『代価』は『刃千吏』全員が『組織』の傘下に加わること。今後、『組織』の指揮系統に加わり
 絶対服従すること。『刃千吏』の祭儀、奥義の記録等資料は、全て『組織』に納めること。以上、三点。」

間の抜けた声で揚々と『刃千吏』の全面降伏を要求する文書を読み上げ終わると女は髪を丸め、『総帥』に視線
を合わせる

「んぁ、今読み上げた要求に対して返答・・・」
「断る!」

女が言い終わるか終わらない内に、目を見開いた総帥が激しく一喝する。
先程までの優しげな顔とはうって変わり、阿修羅のような表情だ

「帰って幹部とやらに伝えろ、我ら『刃千吏』は何者にも屈さぬ、とな!」


炎のような勢いで捲くし立てる総帥
しかし女は全く気押されせず、気の抜けた調子で言葉を続ける。

「んぁあ・・・娘さんとパンダさんが死んじゃうよ?可哀想だよ?」
「構わん!淋も覚悟の上であろう。それに『神獣』の血統も李純で最後ではない!」

力強く言い放つ『総帥』。その言葉には強い『決意』と『怒り』が滲み出ていた。

「んぁ・・・悲しいぽ・・・」
「悲しむことなどない!これがお前の任務であろう。早く戻って幹部とやらに伝えるがいい」

女は本当に悲しそうな目をして呟く

「そうじゃないぽ・・・ごとぉの『任務』はメッセンジャーじゃないぽ。それがごとぉが直接来た理由だぽ・・・」

女の身体がふわり、と浮き上がる。そして徐々に徐々に上昇していく

それを見た構成員の一人が、たまらず叫ぶ

「逃がすな!淋殿と御神体を辱めた賊の仲間だぞ!黒焦げにして『組織』とやらに送り返すのだ!」
「馬鹿者!よ・・・」

総帥の制止は間に合わなかった
感情が昂り、怒りを爆発させた刃千吏の精鋭達が放った炎の矢が、一斉に空中の女に襲い掛かる



しかし・・・
炎の矢は一矢も女には届かず、空中に静止している。
「なっ、何だ?」
「『能力』か?」
「油断するな!」

「アーッハッハッハッハッハッハッ!」

ざわめく刃千吏の構成員達を尻目に、女は突如、けたたましく笑い始めた
茶色だった女の髪が、金色に輝き始める

「アタシは『G』。『組織』の『Genocider』だ。貴様らが降服を受け入れなかった場合の殲滅が私の『任務』なのさ」

人が変わったように冷酷に見下した目、そして冷たく、嘲るような口調に変貌した女
「馬鹿な!殲滅だと」
「女一人でやれるものならやってみろ!」
「行くぞ、今度は『念』で」

「待て!奴は・・・」

総帥がまたも制止の言葉を口にした瞬間に、悲劇は起こった


空中で静止していた炎の矢が、一斉に踵を返して刃千吏の構成員達に襲い掛かる
「ぐわぁ!」
「な、なんだ?やはり奴も『念』を使うのか?」
「あ、熱い~!」
炎に包まれながら転げ回りながら、口々に叫ぶ刃千吏の構成員達
更になぜか炎をが渦を巻き、さながら生きている龍のように他の構成員達
そして山門、寺にも襲いかかり、焼き尽くす

「アーッハッハッハッハッ、さぁさぁ、派手にい~く~べ~!」
「貴様・・・貴様・・・うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」

次々と精鋭達が炎に包まれ倒れて行く中、1人残っていた総帥、淋の父が
『念』と『炎』を合わせた最大級の矢を空中の女に放つ

しかしやはりその巨大な矢も女に届かず、空中に静止する

「バ、バカな・・・私の『念』でも突き破れない『念』を張り巡らしているのか・・・?」
愕然とする総帥
「ざ~んねん、『念』じゃないんだなアタシの力は」
「何っ!?」
「アタシの名前の由来、もう1つあるんだよね~」

女がニヤリ、と笑うととてつもない圧迫感が総帥の身体を襲う

「ぐ、ぐぉお」
「教えてあげる、アタシの名前のもう1つの由来」

ゴキゴキと音を立て、奇妙に縮み始める総帥の身体


『Gravity』



「はい。そうですか~、あちゃ~・・・また派手にやりましたねぇこれは
 いくら姐さんでも揉み消せませんよねぇ、いくら何でも」

Dr.マルシェが見ているモニターには信じ難い光景が映し出されていた。
浙江省の山々の中にぽっかりと出来た奇妙なクレーター


かつて刃千吏の総本山だった山が消滅した・・・否、圧壊した跡である。

「いや~いくら『A』ちゃんがまだ万全じゃないからって広域破壊兵器
 をお使いに出しちゃマズいでしょ~。上層部は何考えてるんですかねぇ
 資料とか遺物とか何にも残ってないんでしょうねぇ、はぁ~勿体ない」



>本部からの脳量子波通信
>受信

>20090307 18:22 『G』、『刃千吏』総本山の壊滅に成功せり。
         但し『刃千吏』の総本山ごと構成員含め資料等、情報も全て消失。

組織は『G』を動かしたのか・・・
広域破壊兵器のカテゴリーの中ではi914より以前に作成された怪物
制御が不安定な危険な存在
私が行けば完璧にミッションをこなしたものを

だがそろそろ調整も終わる・・・私のミッションも再開されることだろう
i914とはいつ戦うことになるのだろうか
その時に、答えは出るのだろうか
私の求めている答えは



最終更新:2014年01月17日 14:55