(25)943 『開店記念日はよんいちさん』



「あれ、今日のケーキいつもと違うんじゃない?」
「おーさすがはガキさん。よく気づいたなぁ~」

カウンター席の定位置から、ガキさんがナイフを持つあーしの手元を見つめる。
いつもよりちょっとデコレーションが多め。それを大きめのケーキナイフで、12等分。
その一切れをお皿に載せて、表面を覆うラズベリージャムの上にチョコプレートを添える。

「“Happy, April 13.”。これって?」
「うん、このお店の開店記念日」
「あ、今日なんだ? 知らなかった~」

どうぞ召し上がれ、とぴかぴかのフォークを添えてテーブルへ。
ガキさんは文字の入ったチョコをまじまじと見つめてから口に含み、
それから、ジャムをひと舐めしてから不思議そうに聞いてきた。

「4月13日、何か意味あるの?」
「ん、あるよー。“良いお店になりますように”、で、よん、いち、さん」

そう答えるとガキさんはキョトンとしてから、ぷっと吹き出して笑った。

「えー、それってセンスひどくなぁーい?」
「そかー? 素晴らしい語呂合わせやと思うんやけどなぁ」

あり得ないあり得ない、を繰り返すガキさんには、教えない。

“しあわせを ひとりではなく みんなへ”。
それで、よん、いち、さん。これも、もう一つの意味だって。


―――これは、何年か前の、今日という日にあった懐かしい昔話。


最終更新:2014年01月17日 15:40