(26)530 『闇の桎梏-2-』



先日の夢が、頭の中にこびり付いて離れない。

忘れたいと思っても忘れられない
鮮明に思い出そうとすれば気になって仕方が無くなる

どうして泣いているの?
ねえ、なんでそんなに、つらそうにしてるの?


聞いたって答えは返ってこない
だって貴女は、夢の中にいたから…


     **


 「あーうーいー」
 「…絵里がとうとう壊れたの」
 「とっくに壊れてるんやなかと?」
 「ひーどーいー」
 「だってそうやろ?頭が」

喫茶リゾナントでの日常は、亀井絵里にとってはとても大切であり、仲間たちにとっても当然大切なものである。
バカにされてるかもしれないような言葉でも、絵里にとってそれは大切な会話であった。

 「だって変なんだもん、絵里が」
 「だーかーらー」
 「違うって言っても最初から変やから大丈夫」

けれど、少しだけ自重してほしい気もするけれど。

 「…あ、そういえばガキさんは?」
 「あ、絵里が戻った」
 「もうっ、最初から絵里はまともですぅー」
 「ガキさんは今日来れんって」
 「え、絵里シカトですか?」

シカトされたよ、シカト。
俗に言うスルーだよ、スルー。

 「愛ちゃんがさっきメールもらったって言ってた」
 「そうなんだー…今日はもう集まらないかもね」
 「そうやねー」


絵里をのけ者にして勝手に話が進んでますけども。
話を整理すると、ガキさんは今日来れないらしいです。
ちなみに店内には絵里とさゆとれーなしかいないし、愛ちゃんは二階でお昼寝中。
あ、今日はお店は定休日なんですよ。

 「少ないと、なんか寂しいね」
 「そうやねー…」
 「………っあ!」
 「いきなりなんね?」
 「っビックリしたぁ…いきなり何?絵里」
 「実は、昨日変な夢見たんだけど…」
 「どんな夢?」

昨日見た夢をさゆみとれいなに話す。
鮮明に覚えているところは詳しく、おぼろげな所は適当に。
その夢に対する感想まで、絵里は話した。

 「…ガキさんがねー…」
 「ただの夢やなかと?」
 「うーん、でもぉ…」
 「ただの夢じゃなかったら、絵里は何だと思うの?」
 「うーん……正夢、とか?」
 「それなら愛ちゃんが今頃共鳴してるんじゃないかな?」
 「そうやね、今頃みんなでガキさんのこと必死に探してるよ」
 「うーん……」
 「そんなに深く考え込まなくてもいいんじゃない?」

けれど、なぜか頭にひっかかるその夢は、とてもじゃないけど忘れられそうにはなかった。
考えても考えても答えは出ないのに、時間があればなぜか考え込んでしまう。
それは、その夢の中に答えがあるかもと期待させられているかのように。


 「寝すぎてボケてるんやろ」
 「ひどーい、れーなっ」
 「たぶんそうだよ」
 「あ、さゆもぉー」

結局バカにされて終わった。
つくづく適当な扱いをされて終わるのかと、絵里は少しだけ悲しんでみた。


それから時間が少し経って、階段から人が降りてくる気配を感じた。
目を向ければそこには愛がおり、目を細めながら現れた。

 「おはよっ、愛ちゃん」
 「おはよぉ」
 「おはようございまーすっ」
 「おぉ、おはよーって昼寝やったし…って、絵里やんか」
 「はぁーい、お久しぶりでーすっ」
 「久しぶりって3日間だけやんか」
 「でも久しぶりなんですよぉ」
 「そうやねっ」

愛は絵里に微笑みながらキッチンの方へと歩いた。
そしてコップを出したりして用意をしている愛を見て、れいなは自分も手伝うとキッチンの方へと行く。
しばらくして愛特製の温かいココアが出てきた。ありがとうと伝え、ココアが入ったコップに口を付ける。
甘い味が口の中に広がり、ほんわかな気分になる。

ココアに温められながら、絵里たち四人は他愛も無い話をしながら過ごす。
何気ない会話、何気ない日常。
絵里はそんな中で、いつのまにか昨日見た夢のことを忘れていた。



最終更新:2014年01月17日 15:50