打ち明けない秘密はとてもつらい
騙していることはとても苦しい
光と闇の狭間でさ迷う貴女を
私たちはまだ知らなかった
気付けなくて、ごめんなさい
こんな時にこそ仲間が必要なのにね
◇◇
外では雨がザーザーと降っている。
先ほどまで曇り空だったのに、雨はしつこくて部屋の中は少し湿気を帯びていた。
「…ガキさん、大丈夫かな…」
「心配っちゃね…」
店のカウンターで三人で並びながら座っていたら、2階から愛が降りてきた。
すぐに愛へと目をやる三人は里沙の様子を聞いた。
「…どれくらい倒れてたのか分からないけど、高熱を出して今は寝てるよ」
「後で二階に行ってもいいですか?」
「悪いけど、今は遠慮したほうが良いと思うから」
ごめんねと言い、愛はカウンター奥に引っ込んだ。
そして少ししてから、トレイを持った愛が戻ってきた。その上に四つ分のカップを乗せて。
「はい、ホットミルク。こういう時はあったかい飲み物が必要や」
「…ありがと、愛ちゃん」
愛は可愛らしい笑顔をしたのに、どこか無理をしている風に見えた。
それも仕方がない。今の状況はここにいる四人では何も分からない。
里沙がなぜ倒れていたのか。なぜあそこにいたのか。
本人が上で寝込んでいる以上、何も解決はされていなかった。
落ち込んでも仕方がない。なのに、こんなにも悲しくなってしまうのは何故だろうか。
里沙には何かあるのかもしれない。
今頃思い出した先日の夢が、考えていることを嫌な方向へと持って行きそうだった。
◆◆
意識が戻ったのは、夜も深くなった頃。
目を開け、額に何か乗っていると気付き、手を額に当てる。
そこには水が含まれたタオルが置かれていた。
そしてやっと、自分は今まで熱を出して寝込んでいたと気付く。
「……何日…?」
まだ気だるさを残した身体を起こし、部屋の壁に貼られたカレンダーを見る。
あの日、自分が公園にいた日から二日が経っていた。
「二日も、か…」
そう呟き、部屋の中を見渡す。
ベッドの脇で、愛が寝ているのが見えた。
ソファの上ではれいなが寝ていた。
彼女たちには間違いなく、心配と迷惑をかけた。
けれど同時に、彼女たちの優しさに触れた気がした。
そこには何も企みなど無い、純粋な優しさ。
今の自分には到底無理な、嘘偽りのない優しさ。
「……愛ちゃん、田中っち…」
二人だけじゃない。
ここにはいない仲間たちには感謝をしなければならない。
なのに、無理だ。
恩を仇で返さなければならない。
いや、仇ということさえも、彼女たちは気付かないようにされるんだ。
…私は五日後に、ここを去らなければならないから――――
◇◇
里沙が倒れた日からちょうど一週間が経った。
そんな日に、里沙と愛の提案で「映画を徹夜で見ようの会」がされた。
なぜ今頃と思うが、たまにはみんなで楽しく映画でも見て過ごそうという主旨の下だった。
反対する者は誰一人としていない。行う日は、翌日が定休日にしようと決められた。
初めて、九人で夜通し過ごす日だった。
皆は嬉しそうに、楽しそうに話題に花を咲かせていた。
次は何を見たいのか言い合いをしていた子がいた。
その仲裁をしている子を見ながら、お菓子を頬張る子がいた。
はたまたのんびりしながら、どんな映画があるのかとパッケージを見ていた子がいた。
寝むそうな顔でソファに座っている子もいた。
深夜でもお構い無しに、バナナを食べる子もいた。
カウンターの奥で、みんなの分の飲み物を作っている子もいた。
そんな光景を見ながら、里沙はただ笑顔でそこにいた。
仲間たちはその後、何が起こるのかは知らない。
ましてや自分たちの仲間が一人、いなくなろうとは思わないだろう。
夜も深くなり、寝始める里沙以外の八人。
少しずつ、分からないように催眠をかけていく。
そして全員が寝静まった頃、里沙は最後の催眠をかける。
それは彼女が命令をされて行ったこと。
それは彼女が勝手に思った良心でもあること。
『自分だけがつらい思いをすればいい』
彼女は泣いた。
心の中でも泣いた。
仲間の記憶を消し去り、闇よりも深い場所へと投じようとする彼女。
否、仲間とはすでに言えない、そんな立場にいる彼女。
そんな彼女の背中が、ただ、寂しく悲しげにそこにあった―――――
◇◇
ねえ、ガキさん
なんでそんなに、泣いてるの?
絵里はここにいるよ、みんなだっているよ?
ねえ、ガキさん
一人で泣かないでよ
絵里がいるのに、ここにいるのに
ねえ、届かないよ
どこに行くの?
どこにも行かないでよ、だって、仲間でしょ?
ねえ、行かないでよ
離れていきそうで絵里、怖いよ――――
最終更新:2014年01月17日 15:55