(27)214 (俺シリーズ8)



「先ずは、此方の映像を皆さんに見て頂きましょうか。」
白衣を身に纏った狂気のマッドサイエンティストがパチンと指を鳴らす。
それまで室内に浮かんでいた9人の立体映像は消え、新たに空間に映し出されたのは闇夜の下、廃虚ビルを背にして対峙する2人の小柄な女性。
両者の間には静かな、そして確かな殺意が互いの視線を通じて交差している。

これから互いの命を懸けた“死闘”が始まろうとしていた。
数分間の沈黙を破り、先に動いたのは“サイボーグ『A』”。

超人的なスピードで次々に怒涛の攻撃を仕掛ける『A』に対し、敵の少女は更にそれを上回る早さで攻撃を回避していく。
いや、この敵の少女の動きはスピードどうこうの次元では説明出来ない早さだ。
不思議なことに『A』の攻撃が敵に直撃すると思われた瞬間、少女は全く別の場所に姿を移しているのだ。
「そう、あれが敵のリーダー高橋愛お得意の瞬間移動です。」
この女が敵の親玉なのか。そうか成る程、攻撃が全く当たらないのであれば確かにあの『A』でも勝機はなかった訳だ。
だが、戦いが長引くに連れ、形勢は次第に『A』に傾いていく。


「体力を減らす一方の高橋愛に対し、サイボーグである『A』のエネルギーは無限ですからね。おまけに高橋愛は普段は精神感応の能力で敵の攻撃を読み取る戦法に長けていた様ですが、生憎『A』には一切の感情が無いのでその手は使えません。
逆に『A』の電子頭脳には高橋愛の戦闘パターンが全て入力されているので彼女の動きを予測する事は容易です。」
白衣の女が満足げに戦況を解説する。
成る程、瞬間移動と精神感応を併せ持つこの敵を倒すには『A』はうってつけの戦士だった訳だ。
ん?ちょっと待て。瞬間移動と精神感応…この組み合わせは確か…。

そうだ!アイツだ!あの憎たらしい“髭野郎”と全く同じ能力だ…。
違う人間に、同じ能力が二つも重なって宿るなんて滅多にないぞ?
どういう事だ?あの男、敵の親玉と何か関係あるのか…?
「さあ、見ものはこれからですよ?皆さん。」
不敵に笑う白衣の女の声に導かれるように、俺は再び“戦い”に集中する。
既に敵の親玉は血だらけの状態だ。『A』の攻撃を全く避ける事が出来ず、まさにサウンドバッグと化している。
誰の目から見ても『A』の勝利は目前だった。
『A』が敵の親玉にトドメを刺すべく最後の攻撃を繰り出そうとする。
…だが、その時…。


「うわ、何だ?眩しい…!!」
敵の親玉の全身から突然、目が眩むような凄まじい“光”が発せられた。
あまりに強烈なその“光”を直視してしまった俺は、なかなか目を開けることが出来ない。
やがて視力が戻った俺の目に、信じ難い光景が飛び込んできた。
…無い、何も無い…。つい先程まで確かに存在していた筈の『A』も、『A』がいた周囲の景色その全てが,消え失せていた…。
「如何ですか皆さん、素晴らしいでしょう?私の自信作だったサイボーグ『A』は、あの美しい“光”によって、跡形もなく消え去ってしまいました。高橋愛、彼女はとても優秀な能力者ですね。」

…怖い。恐ろしい…。一人の人間を一瞬で消滅させたあの“光”…。
そして、人が消え去るのを見て嬉々としているこの白衣の女も…。
「御託はいいから早く決めようぜ。次は誰がこの女を始末しに行くのかを。」
イケメン女が楽しそうに笑っている。この女に勝つ自信があると言うのか…?
「待ちなさい吉澤。ここは慎重に作戦を立てて彼女達と対する方が賢明だわ。」
さすが聖母、冷静な状況判断だ。敵がこんなに強いのなら闇雲に攻撃しても今までのように返り討ちに遭うだけだろう。


「あれ圭ちゃんビビってんの?心配しなくてもあんな奴等、今度はオイラが一瞬で消してあげるよキャハハハハ!!」
は?馬鹿かこのチビ?
どれだけ強いのか知らないが、常識的に考えて四天王の『A』でも倒せなかった相手に、お前如きが太刀打ち出来る訳がないだろう…。
「待って下さいよ皆さん。彼女達を“淘汰”してしまうのは余りにも惜しいと思うのですが。」
「どういうことだ?」
「言葉通りですよ吉澤さん。彼女達リゾナンターは高橋愛の他にも大変興味深い能力者が揃っています。
“傷の共有”という特異な能力を持つ亀井絵里や田中れいなの“共鳴増幅能力”、更には絶滅したかと思われていた古の“獣化能力”の継承者ジュンジュン。
敵とは言えこんな逸材達を消すなんて非常に勿体無いと思いますよ。」
「で、アンタはどうしたい訳?」
聖母の問いに、白衣の女は意外な提案をする。
「彼女達リゾナンター全員を我がダークネスに迎え入れたいと思うのですが。」
…おいおい、とんでもないこと言い出すなこの女…。


これまで奴等に散々痛い目に遭わされてきたと言うのに、仲間にするだと?
「アンタ本気で言ってるの?大体、彼女達が容易く私達の要求を飲んで仲間になるとはとても思えないけど?」
「保田さん、その点ならご心配なく。スパイとして送り込んでいる、新垣里沙の“洗脳能力”を使えば彼女達を我々の配下にする事など、赤子の手を捻るようなものです。」
よく考えたら確かに妙案かも知れない。
本当に“洗脳”とやらが可能ならば、我々の兵力を削ぐ事なく、リゾナンターという“目の前の脅威”だった存在を、我がダークネスの超協力な新戦力に変えられるのだから。

「はぁぁ?オイラはあんな奴等を仲間にするなんて、絶対に認めないから。」
「私も反対だぜマルシェ。折角久しぶりに胸沸き立つ敵が現れたってのに仲間にするとか、くだらなねぇ。お前が何を言おうが私はアイツらと戦うから。」
「ちょっと待ってよっすぃー!アイツらを始末するのはこのオイラだから。邪魔しないでくれる?」
「…止めた方がいいわね…。」
チビとイケメン女の荒ぶった声を遮ったのは、感情のない冷たい声の持ち主。
「…また何か“視えた”の?圭織。」
この会議室で初めて口を開いたインチキ女に『天使』がそう声をかけた。

俺のずっと右横で沈黙を守り続けていたインチキ女がそっと立ち上がる。
そして無表情のまま、またしても不気味な“予言”を俺達に告げるのであった。

「…もうあのコ達、特に“光使い”のコには近づかないことね…。これ以上、あのコ達に関わると近いうちに…皆、死ぬわよ…。」



最終更新:2014年01月17日 16:13