自分はなぜここにいるのだろうか…
気付けばここに足が向かっていた。
小さな喫茶店。
明るい日差しの射し込む窓。
規則正しく並べられたテーブルは綺麗に磨き上げられている。
カウンターにはパルマのカウンターチェアーが数脚。
向かって左から三番目の椅子に腰を下ろした。
カウンターの中には一人の女性。
「いらっしゃいませ」
「ええっと、ブレンドコーヒーを」
「少々お待ちください」
おかしいな。 この店は初めてのはずなのに、どうしてだろう。
―この店に来るのもあなたと会うのも初めてじゃない気がするんだ。
「そう…でも、あなたがここにいて私もここにいる。その事実は曲がらない。
たとえ本当に以前あなたと私がどこかで逢ったことがあったとしても、
現在お互いがここに在る事実は変わらない。」
―…そうなの、かな? …じゃあ、なんで僕はここにいるのかな?
―そんなことあなたに聞いても解からないよね。
なんで、こんなことを聞いたのだろうか…
自分がついさっきまでなにをしていたのか覚えていない、気付けばここに来ていた。
この人なら何か教えてくれる、不思議とそんな気がした。
「…あなたがここに来た理由なんて、私にはわからない。」
それはそうだ。
「だけども、あなたにも分からないということはあなたの表層とは別の意思がもたらしたこと
真であり偽りでもある深層心理。 それはあなたが心の奥で望んだこと。」
心の奥…自分であり表面の自分ではない自分…
―それは僕が心の奥でここに来ることを望んだって事?
「…そうね、あなたはここに来ることを望んだ。」
・
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・
いつの間にか日は沈んでいた。
―あなたはいつからここにいるの?
「…分からないわ」
―分からない? 僕と同じで気付けばここに?
「分からない。 でも、私ははじめからここにいた。」
―はじめから? それって以前のことは覚えていないってこと?~
「私の始まりはあなたの心の囁きだった。」
―!?
「あなたがここに来たことであなたと私は出逢った
私とあなたの始まりはここ、ここがわたしの始まり。」
そういうことか。
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・
カウンターの中に読みかけの文庫本が伏せられていた。
彼女のものなのだろう。
―何を読んでるの?―
あるいは彼女の読んでる本に興味は無かったかも知れない。
ただ彼女の声を聞きたかっただけなのかもしれないけど…
「……全ての記録。」
―全ての記録?
「はじまりから始まり、終わりのない記録…」
興味は無い…はずだったけど
―少し見せてくれないかな?
「好きにすれば良いわ、あなたも持っているはず…だから。」
え?僕も
ジーンスの後ろポケットを探ってみる。
何か入っている。
取り出してみた。
……白いカバー、表紙には書かれている題名の文字はかすんで読めない 。
………
……………
………………………
……………………………………………
いままでのことが載ってある
―今までのことがのってあるよ。
「…そう、これは彼方からの記録。」
―彼方からの記録…でもここから白紙になっている。
「これからの記録、それはあなたが綴っていかなければならない。」
―僕が綴る記録。
「記録はあなた自身でもあり、あなたを支える柱の一つになるわ。
そしてこの世界を作る大切な要素の一つになる」
「だけど過去に縛られてはダメ。
あなたは未来に向かって歩いてかなければならないから。
この本は決して過去に逆戻りするためのものではないから。
無限に続く未来への足掛かりにするためのものだから…」
読めなかった本の題名の文字の輪郭が鮮明になってきた。
そこにはこう記されていた。
……リゾナントブルー AnotherVers(ry まとめサイト Ver.2
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気がつけば僕は喫茶店に一人でいた。
もうすぐ夜が明ける。 窓から視える空はほのかに蒼かった。
もう一度、逢えるだろうか……
いま、互いがここに存在する事実は変わらないわ…
もしかしたら彼女は…
ひょっとして僕は…
そしてあなたは…
最終更新:2014年01月17日 16:17