「話?」
「うん…」
思い切って言ったものの言葉が続かない。
私、実はダークネスなんだ。
この一言が、言えない。
私が話し出すのを愛ちゃんは黙って待っていた。
さっきより雨が強くなっている。
この静寂が、雨音だけの世界が、私を焦らせる。
「あの、ね…」
早く言わなきゃ。
愛ちゃんが待ってる。
本当に言うの?
だって、言ったらもう…私たちは…。
「え、ちょ…ガキさん!?」
「え…?」
愛ちゃんに指で目元を拭われた。
私…泣いてる…?
「どうした?大丈夫?」
離れたくないよ…。
ずっと、みんなと居たいよ。
「ガキさん」
「ごめん、ね…」
話を聞く為に、探しに来てくれたのに。
ずっと待ってくれてるのに。
「そんなんいいから。…ゆっくりで、ええから」
愛ちゃんの言葉に、私は静かに頭を振った。
ゆっくりじゃいけないんだよ。
朝になったら私は行かなきゃいけないんだから。
なのに、言おうとすればするほど、涙が溢れてくる。
「今、話さなきゃ駄目なの?」
「うん」
「でも話せないの?」
「うん」
上手く声が出せない分、私は大きく頷いた。
「私に話したいこと?」
「そう、だよ…」
もっと顔が見たいのに、涙でぼやけて見えない。
もっと声が聞きたいのに、雨音がうるさくて聞こえない。
今のうちにその温もりを感じておこうと、私は愛ちゃんにくっついた。
言ってしまったら、もう二度とこんな近くにはいられないから。
「じゃあ、私が聞いたるよ」
「え?」
「ちょっとだけ、私に聞かせて?」
愛ちゃんはそう言うと、傘を持つ私の手に左手を重ねた。
「愛ちゃん?」
「ちゃんと、それだけ聞くから」
私の気持ちを読み取るってこと?
私の目を見て一度だけ頷くと、愛ちゃんはそっと目を瞑った。
どうしよう。
愛ちゃんが待ってるから早くしないと…。
ってこれも愛ちゃんに伝わってるのかな。
「ん、もういいよ」
私が一人でドキドキしていると、愛ちゃんが手を離した。
え、もういいの?
「ずっとそのことばっかり考えとったやろ」
私がぽかんとしていると、愛ちゃんは困ったように笑った。
「読み取ろうとせんくても、すぐに飛び込んできたで」
「え…本当に?」
「うん」
なんだか恥ずかしくなって、私は何も言わずに俯いた。
それを見て、愛ちゃんは楽しそうに笑っている。
なんで愛ちゃんはそんなに普通にしていられるの?
私が言いたかったこと、わかったんでしょ?
「ありがとう」
愛ちゃんの言葉に、私は思わず顔を上げた。
「本当のこと話してくれて、ありがとぉ」
「愛、ちゃん…」
愛ちゃんは私の顔を見なかった。
言葉の最後が揺れていた。
「ごめん…」
愛ちゃんが静かに泣いているのを見て、私はぎゅっと唇を噛み締めた。
最終更新:2014年01月17日 16:32