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森の中を走り抜ける少女。その少女を必死に追う村人たち。
村にある一軒の家屋が火事に遭った。
村人たちはいきなりのことに戸惑い、その家屋にいた住民を助ける。
そして消火活動をし、村人たちは終わった後に広場に集まった。
何故だ。いきなり火事が。どうして。どうやって。誰が…?
あいつだ。あいつがやったんだ。変な力を使いやがって。気味が悪い。
少女は村人たちの声を聴いた。殺されると思った少女は森のほうへと走っていった。
行先はあの崖。白い十字架のある場所。
しかし村人が追いかけてくる。鬼のような形相で、鎌やナイフを持って追いかけてくる。
少女は必死に逃げていると、前のほうから光が漏れてくるのが見えた。
もうすぐだ。もうすぐで、あの十字架がある場所に辿り着く。
けれど村人たちは分かっていた。少女がいつもどこにいるのか。
あの崖だ。あの十字架がある場所だ。
白い十字架。
それは少女の母が、ひっそりと眠る場所。
◆◆
街中に佇む小さな教会。
教会に近づき、扉に手をかける。
ステンドグラスから降り注ぐ、月明かりに照らされた色とりどりの光。
暗く、異様な不気味さを保ちながら、なぜか血の匂いがした。
一歩ずつ踏みしめながら、大きな十字架がある場所へと近付いていく。
血の匂いは濃くなっていくばかり。
ふと、十字架の真下で倒れている人を発見する。
顔がよく見える位置まで移動した。
「っな……」
そこには、”天使”という異名で呼ばれていた彼女の、血に染まる姿があった。
**
その手に握るは闇を斬ってきた刀。
高橋は、刀を再度握りしめ、後藤の前に立ち塞ぐ。
「…ねえ、高橋は知ってるっけ?この白い十字架の、本当の意味を…」
先ほどまで戦っていた二人は距離を開けた。
後藤は血に染まった右手で十字架を指差し、高橋に問いかける。
「…“共鳴の監獄”」
“共鳴の監獄”
共鳴者しか収容することができず、共鳴者専用の処刑台が設置されている監獄。
その処刑台は十字架の形をしていて、意味は光を掲げる神を葬る場。
それはさながら、かつてのイエス・キリストのように処刑させる為…
悲しみを和らげ、光を宿す共鳴者。闇にとってそれは単なる悪でしかない者たちを処刑させる場所。
「よく覚えてるねー。でも、満点じゃないね。もっと簡単に言えるのにさ」
「…なんや」
「おー、こわっ。しかも一応先輩なのにさー、ごとー悲しいなー」
「もったいぶっとらんで言えばええやろっ」
「……共鳴者は、本当は世界の敵だってことさ」
「なんやって…?」
「ただの人間から見れば、共鳴者だって能力者だし、闇の住人だって同じ能力者。
能力者同士の中で光と闇に別れていても、所詮人間からしてみれば同じ能力者なんだよ。
人間は自分と違うものを見つければ、すぐに異端だって言うからね。昔の魔女裁判とかそうでしょ?火あぶりの刑とか、あれエグイよねー」
「っだからなんや!」
「だーかーらー、…所詮、人々を助けてあげる共鳴者は異端の存在なんだよ。
人間に見つかったら、すぐに排除されるような存在。闇があるから、光は正義という名の偽善を掲げることができるんだよ。
悲しい運命だよねー、光は闇がいないと、異端にされちゃうような存在なんだからさー」
「かわいそうに。そんな世界を救おうとしてる高橋たちに、同情するしかごとーはできないけどね」
「そんな中でよく、人間を助けようと思うよ」
一瞬、心が傾いだのは、気のせいだ。
よく見ろ。前をしっかりと見すえろっ。倒すべき相手は、目の前にいる奴だけだ…!
「愛だの、仲間だの…よく言うよ。
どれもすべてが、夢の中。思い込んでるのは、共鳴者と呼ばれるキミたちだけだ。
現実を見たら?周りをよく見てみなよ。作ろうとしているキッカケすら、無駄な努力だよ」
刀を握り締める手が緩んだ瞬間、後藤はいつのまにか目の前まで距離を縮めていた。
そして血に濡れた後藤の拳が、高橋の腹に一撃を入れる。
力の赴くままに、そのまま高橋は後方へと吹っ飛ぶ。床に激突した瞬間、口から吐かれる赤い液体。
視点が定まらない。手が動かない。足も、身体全体が動かない。
手から離れた愛刀は遠くにあった。
近づいてくる気配と聴こえてくる足音を頭では分かっているのに、身体が動こうとしない。
声を出そうとして、さらに血を吐く。
「……異端の存在、偽善の共鳴者。…高橋、キミの掲げていた正義は、世界を救えないなー…」
暗転する直前に視界に映っていたのは、かつて、尊敬していた先輩の面影などまったく無い、別人だった――――
最終更新:2014年01月17日 16:41