(37)163 モーニング戦隊リゾナンターR 第10話「ツキシマキラリの肖像」



「A」に連れ去られるような形で、さゆみと絵里に別れを告げた愛。
次なる世界の行く先は…海辺に立てられた病院だった。

愛は何故かナース服を、一緒に世界を移動した「A」も白衣を身に着けている。
自分をさゆみ達の居た元の世界に戻すように「A」に迫ったが、お前の旅の行き先には関知しない、といなされる。
愛は看護婦として、「A」は検査技師として病院で働くことになる。

愛は久住小春という少女の担当になった。
カルテには外傷の後遺症による視力の減退とあるが、傍目にはさして支障があるようには見えない。
そんな小春の評判は最悪に近かった。
これまで彼女の担当になった看護婦の殆どが、3日と持たずに担当を外れていったという。

驕慢な小春に振り回される愛だったが、幼い子の声を聞いた時、彼女が優しい表情を見せていることに気づく。
子供が好きなんか、と話題を振っても憎々しげな表情で否定する小春の様子に心を痛める愛。
小春の病室は個室だったが、その部屋の窓はいつも分厚いカーテンで閉ざされていた。
暗い部屋に光を取り入れようとカーテンを開けようとする愛を制止する小春。
カーテンを開けたって私の目には関係ない、と。
目の症状を失念していたことを口ごもりながら詫びる愛に、あんたウザい、と吐き捨てる小春。
突然愛の目に巨大なゴキブリが羽を広げて襲い掛かってくるのが映る。
驚きのあまり逃げ惑うが、視界に在り続ける醜悪な虫。
さっさと出て行ってよ、でないともっと気持ち悪いものをあんたの目に…


這々の体で小春の病室を退散した愛に近づく男。
男は愛に月島きらりの写真を撮って来て欲しいと言う。
怪訝そうな表情をする愛に、「久住小春のことだ」と。
あんな有名人のことを知らないのかと驚く男に対して、自分は帰国子女だからと誤魔化したが…
男は写真誌の記者でスキャンダラスな人生を歩む小春のことを追っているという。
小春とスキャンダルという言葉が結び付かない愛に、男は力説する。

デビュー当初、理想的な両親の存在をアピールしていた月島きらりこと久住小春だったが実はその両親は偽物で、
後から本当の両親が現れ、小春に関する様々な権利を要求したこと。
問題は、偽物の両親の素性も消息も全く不明だということだ。
その後発覚したミュージシャンとの交際、結婚の為の電撃的引退、そして婚約者の突然の事故死。
そしてあの事件…

「あの事件?」愛は詳しく尋ねようとするが、警備員が近づいて来たのを見て去って行く。
月島きらりの近影を撮影して欲しい、報酬は弾むから、と。

検査室に「A」を尋ねた愛。 パソコンを操作している「A」に敵か味方かを問いただすが、それは愛の行動次第だと言われてしまう。
パソコンの画面に踊る文字、「月島きらりを殺しにいきます」「月島きらり葬儀会場(笑)」など、どれもが小春を誹謗するものばかりだった。
「何故あの子がこんなに憎まれるん?」憮然とする愛。

今度は動画を再生する「A」。
劇場中継を録画したものらしい。
舞台では道化師の衣装を身につけた小春が長回しの台詞を喋っている、が劇場内の異様な空気が画面越しに伝わってくる。
「この舞台は一体?」 「A」が事実を伝える。
今再生されている映像は、テロリスト達に占拠された劇場からの中継だということ。
出演者や観客を人質に、日本政府に対して身代金を要求した犯人達は、自分たちの要求を俳優たちの口から話させようとしたが、
一人それを拒否した小春は、自分が舞台で演じた役柄の台詞で犯人達を愚弄したこと。
その際の言動が犯人グループを刺激し、多くの人命を危険に曝したことを、事件解決後の政府関係者の会見で指弾された小春は、国民の非難を浴び…
画面はいつしか激昂した犯人に暴行を受けている小春の姿が映し出されている。


「そんなん、あの子が悪いんやない。 劇場をジャックした犯人達が悪いんじゃ」
「興味深い事実がある。 この事件の人質で負傷したのはあの娘が最後だということだ。 つまり、あの娘の言動が原因で負傷した一般人はゼロということだ。」
「じゃあ尚更あの子がそこまで責められなくても」
「テロに対する政府の無為無策から目を逸らさせるためのスケープゴートにされたというところだろうな」
「犯人は・・この犯人たちは、どうなった」 暗く沈んだ口調で話す愛を興味深げに観察する「A」。
「制圧されたようだな。表向きは、米軍の協力を得た日本政府が解決したということになっている、あくまでも表向きだが」
「A」の言葉に裏を感じ取った愛。
「米軍基地で非公式に行われた犯人グループへの事情聴取の記録にアクセスした」
何故そんなことができたのかなんていうつまらないことは聞くな、私には容易いことなのだから、と釘を刺す「A」。
「犯人達は、米軍の対テロ特殊部隊が突入した際には、全員が戦闘不能状態に陥っていた。そして怯えきった奴らが共通して言っている、自分達は女にやられた」
「女?」 「そうだ、女。それもたった一人の女にやられた、と証言している」
「それはひょっとして?」
「その女の動きは速く、苛酷な訓練を受けた兵士達でも補足することが適わなかった」

劇場ジャックの犯人達をたった一人で倒した女に、能力者の影を感じた愛。
その女はきっと小春の仲間で、二人を再会させることが出来たなら、小春を救うことが出来るのではないか。
そんな希望を抱いた愛に、どうやって引き合わせるつもりだ?と「A」は尋ねる。
それはまあ何とか捜して…と口ごもる愛に「A」は告げる。
この事件には何か裏がある。
それを解かない限り、おまえの捜す女は見つからないだろう。
どうすれば事件に隠された真実を説き明かすことが出来る?
「お前は他人の精神と感応することが出来るのだろう。何故その力を使おうとしない?」

小春の心の中を覗くことを躊躇う愛だったが、お前がその力を使わないのは他人の心を大切にしてるからじゃない、自分の心が傷つくことを恐れているだけだ、と決めつけられたことで決意する。
小春の精神と感応して、事件当日の記憶を溯ろうと。


「あんた、頭がおかしいの」 愛の申し出に対する小春の反応は冷たかった。
何とかして小春のことを救いたいという真情を伝えても、そんなことを言って私のことをダマそうとしたヤツは、これまでに何十人といた、あんたもその一人だろう、と。

「A」が提案する。
愛にお前の精神を委ねたならば、お前が今望むものをくれてやろうと。
「あんたなんかに私の何がわかるっていうの?」
「絶望の底から見出したたった一筋の希望の光さえ潰えてしまった今のお前が望むもの、それは永遠の静寂、そして絶対的な暗闇」
その言葉の意味するところに噛み付く愛だったが、ならばお前が救ってやれ、とあしらわれてしまう。
「A」の提案を受け入れた小春。
挑みかかるような表情で、私の心の中を見せてあげる、と。
小春の精神を垣間見る愛、そこには…。

親の愛に飢えていた幼少の頃。 芸能界の放つ輝きに温かさを感じた時。
偽りを重ねるほどに、砂を噛むような虚しさを覚えた虚構の家族の事。
誇りと勇気をくれたファンの存在。 運命の人との出会い。
突如、表舞台に現れてきて、権利を主張した本当の両親。 好奇心に満ちた視線。
大切な人と二人で本当の家族を作って生きていく決意。 …そして永遠の別れ、絶望の闇。
誰もが去って行き、近づいてくるのは自分を食い物にしようとする者ばかり。
失意の中で見た舞台から受けた衝撃、希望の光。
仄かに芽生え始めた意欲。 ゼロ、マイナスからのスタート。
端役のオーディション、課題を克服することの喜び。 アイドル上がりに何ができるのかという嘲りの声。
侮りの視線を賞賛のそれに変えてみせるという決意。
そして迎えた舞台初演の日、自分の居場所を見出した喜び。
舞台の一員として認められていく実感。
あっというまに訪れた千秋楽の日…。

招かれざる訪問者、武装した兵士達。
彼等のリーダーは、日本政府が要求を呑みさすれば、誰も傷つくことはない、と言った。
だから、協力せよ。さもなくば、死あるのみだ、と。
私には彼の言葉が嘘だということがわかった。
何故なら、その言葉を紡ぎだしている彼の顔は、以前の私の顔とよく似ていたから。
形が似てるわけじゃない。 薄っぺらで真実の籠っていない偽りを吐いている顔には表情というものが無いからだ。
仮に彼らの要求が叶えられたとしても、劇場内の人たちの命は助かることはない。
彼等の脱出を助けるために、あるいはもっと別の理由で殺されてしまう。(助けてよ)
そのことに気付いているのは私だけ、だから何とかしなくては。 私が何とかしなくては。(誰か、助けてよ)
私自身が死ぬことにそれ程の恐れはない、だけど私のことを受け容れてくれたこの人たちを助けたい(ねえ誰か、お願いだから)
高鳴る鼓動、震える心、研ぎ澄まされていく精神、発動するチカラ、やがて舞台は暗転し、それから……

身体を走る激痛、塞がれた視界、乾いた心。
場内は制圧され、暴漢達は排除された。
やり遂げたと、私は大事な場所を、大切な人たちを救えたんだ。
傷ついた肉体から発せられるシグナルを、高揚した精神は認識しない。

「良かった、皆無事で本当に良かった」 心の底から湧き上がった呟きは、無数の罵声に掻き消されていく。
「馬鹿野郎、お前のせいで皆が殺されるところだったんだぞ」(違う)
「恋人の後を追いたいなら、一人で死んでくれ」(私は皆を助けようと)
「いきがってるんじゃないぞ、このクソ女」(違う)
「お前なんか辞めちまえ、このええ格好しいが」(私は皆のために)

小春の精神を読み取った愛、その目には涙が溢れていた。
「何で、こんなことに。 あんたの仲間はどうしてあんたのことを放って置いたんや」

違うな、お前はきっとこの世界にも高橋愛という能力者が存在して、そいつがこの娘のことを救ったと思っていたんだろう。
が、それは違う。 この世界に生まれた能力者達に関する記録にアクセスしたところ、この世界にお前は最初からいなかった、「A」が薄ら笑いを浮かべる。
「え、それはどういう」
「鈍い奴だな、気付け。 この世界に高橋愛は生まれなかった。 
 お前だけじゃない。 お前がこれまでの旅で出会った能力者達もこの世界には最初から存在しなかった。
 この娘は犯人たちの網膜に存在しない能力者の姿を念写で貼り付けた。
 犯人たちはその姿に踊らされて、同士討ちを始めた。 そして無力化したところを突入部隊によって制圧された
 この娘はたった一人でテロリストたちと戦ったんだ。 仲間だと思っていた共演者や大事な舞台、大切な観客を守る為に」

だが、その思いは裏切られたがなという言葉を続けようとした「A」だったが、途中でやめた。
今の愛にはその言葉を受け止めることが出来ないからだ。
「私には仲間なんていない。 これまでも…これからも…」 
小春に手を差し伸べようとする愛だったが、その言葉を聞くとまるで見えない壁があるみたいに止まってしまった。
小春との距離は息を感じるくらいに近いのに、その隔たりは限りなく遠かった。

病院の外から小春の病室を見上げる男、愛に近づいた写真誌の記者だ。
男は自分の車に戻ると携帯をかけるが、その発する言語は異国の響きだ。
服の袖を捲し上げるとそこには、拷問を受けたかのような火傷の跡が




【次回予告】

小春の真実の姿を知った愛は、何とか希望を与えようとするが、全てが裏目に出てしまう。
その一方で小春に復讐する為に病院を襲撃するテロリストの残党達。
非道なテロリスト達に怒りを爆発させる愛。  「この子の、小春の夢は私が守る」 

第11話 「小春の夢」

 心を繋いで、小春を救え!!


最終更新:2014年01月27日 18:30