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『それが汚い金持ちのものだと分かるのはもう少し未来の話 ~ジョリー・トウノ・2nd 参戦前夜~』



地面に財布が落ちていた。桃爺は腰を曲げてヒョイとそれを掴みあげた。ずしりと重い。
辺りを見回しても人っ子一人いない。どれとがま口を開ければ目をむく大金が詰まっていた。
そこは、拾得物は即時拾得者が所有権を取得する希望崎学区内であった。

我が懐に敵は無し。大笑いをし、極上機嫌となった桃爺はその足で酒場へと向かった。
鼻歌を歌い、顔なじみの客に大盤振る舞いをし、なだめる店主にも酒を注いだ。
深夜。アル中の桃爺は雲の上を歩くようにふらつく足取りで家路についた。

次の日。ガンガンと鳴り響く頭痛にたまらず寝床から這い出た桃爺は懐の財布が無い事に気付いた。
大慌てで服を脱ぎ、逆さに振り、布団をひっくり返し、家探しをした。しかし財布は無かった。
ママン工業総帥のジョーカーは「また酔っ払って夢でも見たんでしょ」とにべもなかった。

すっかりとしょげかえった桃爺はあの財布さえあれば夢のような暮らしができたのにと言い。
ジョーカーは「あなたが酒を飲まずに真面目に働けばいいでしょう」とあしらった。
今から遡ること五年前の出来事であった。



桃爺はかつて若さと行動力と明るさに溢れ、誰からも将来を有望される男だった。
事実、皆の期待に違わぬ実力を発揮し、かのママン工業の総帥とも知己を得る程だった。
しかし、酒の味を覚えてから桃爺の生活は一変した。

連日、深夜まで飲み歩く。家に帰っても部屋で酒を煽っては大声でお祭り騒ぎ。
ジョーカーからいいかげんにしろとの苦言をもらうことも一度や二度では済まなかった。
仕事に振るわれた手腕は今や一升瓶を振るうだけとなり、アル中の仲間入りとなっていた。

「けれど、今回の馬鹿騒ぎで自分にほとほと愛想が尽きた」と桃爺は言った。
あるいは、得た大金でジョーカーに何かをプレゼントする――そんな昔の夢を思い出したのかも知れない。
もう一度真面目に仕事をしよう。酒も断とう。こうして桃爺は再起した。

それから一年。再び真面目な人間となった桃爺は、また目覚ましい働きを見せた。
桃爺の依頼によるママン工業謹製の幼女型ロボット一号機が完成し、世間を沸かせた。
桃爺の活躍はとどまるところを知らなかった。



あれから五年の月日が流れ。
ママン工業謹製の幼女型ロボット二号機、ジョリーが誕生して二年が経っていた。
桃爺は押しも押されもせぬ大旦那として世間の耳目を集めるまでになっていた。

その日の夜。桃爺のもとへ、改まってやってきた者がいた。ジョーカーである。
「これをあなたに」「これは」
ジョーカーが差し出したものを見て桃爺は驚いた。それはあの日無くした財布であった。

「あなたには言わなければならない事がある」そう言ってジョーカーは全てを明かした。
五年前、前後不覚に酔っ払って現れた桃爺を介抱している最中に財布の存在に気付いた事。
悪名高き希望崎の、誰の物とも知れぬ大金。それは拾得するにはあまりに危険だと判断した。

「だから希望崎の生徒会に届けておいたの」「そうだったのか」
それから五年経ち、二回留年していた者も卒業し、当時の在校生がいなくなった。
だから生徒会からこうして再び桃爺のもとへと財布が譲渡されたのであった。



「あなたにはずっと嘘をついていたわ。ごめんなさい」
真実を語り終えたジョーカーはそう言葉を結ぶと頭をさげた。
しかし桃爺は「俺を思ってしてくれた事だから」と笑ってそれを許した。

「お前のおかげで俺は真人間に戻れたし、ジョリー達もいる」
桃爺は隣の寝室で安らかに眠る幼女型ロボットを思った。
一歳にして特進で希望崎学園に入学したハイパーエリートダンゲロッサーを。

「こうして財布も返ってきたのだし、今夜くらいは久しぶりにお酒でも飲んだらどうかしら」
ジョリーももうすぐ初の本戦参加だし前祝いにと、ジョーカーは酒を差し出した。
酒がもとで道を誤りかけた者、桃爺も流石にはじめは悩んだが、せっかくだからと盃を取った。

小さな盃に透明な酒がとくとくと注がれ、天井の光をうけて器の中で丸く光っていた。
桃爺は目を細めてその様を眺めると、盃を小さく揺らし、そっと口元へと運び――「やっぱりやめた」盃を置いた。
どうしたのかと問うジョーカーに、桃爺は軽く笑って応えた。「また夢になるといけない」<了>