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布団さん×伊吹命SS


「……今日は悪いけど、モノノケになってもらうから」
「はぁい。じゃあ横になってねー。」

今日は命ちゃんが能力を使って私、掛け布団をモノノケにしました。
布団に身体を横たえた命ちゃんの上に、パタンと音を立てて覆いかぶさります。
この季節柄、やはり寒いのか命ちゃんは身を縮めるように私を深めに被ります。

「……おやすみ」
「おやすみなさい」

そう言って、命ちゃんは目を閉じました。

「…………」
「…………」

静寂の中、時計の針だけがひっそりと活動し規則正しく音を刻みます。

「…………」
「…………」

時折命ちゃんは寝返りを打ちます。その瞼は安らかに閉じられているというよりも開かないよう努力して閉じられているといった様子です。
何度目かの寝返りの後、きつく目を閉じ眉間にシワを寄せている命ちゃんに見かねて、声を掛けます。

「眠れない?」
「うん」
命ちゃんは主に何か辛いことや悲しいことがあった時に私をモノノケにします。
今日も何かあったのでしょうか。
「ねぇ布団、あのね――」
私の心情を察したのでしょうか、今日の出来事を教えてくれました。友達を庇ってハルマゲドンという殺し合いに参加することになったそうです。

「……正直言って、怖い」
掠れた声で吐き出されたそれは、まさしく命ちゃんの本音なのでしょう。普段は自信に満ちた瞳が今では儚く揺れています。
命ちゃんが庇った友達は平和を愛する優しい子だと伝え聞いていますが、命ちゃん自身もとても優しい子だと私は知っています。そうでなければ友達を庇って自らを死地に飛び込むなんてことはしないでしょう。
そんな子が殺し合いにだなんて……私はとても悲しいです。万が一生き残れたとしても人を殺めてしまったらこの子はその罪悪感に日々苛まれることでしょう。
私はなんて声を掛けたらいいのかわかりませんでした。どんなに言葉を選んでも、彼女を心の底から安心させることはできないように思えたからです。
なので。

「その調子で何でも思ってることを吐き出してごらん。」

命ちゃんの好きなように喋らせることにしました。今にも決壊してしまいそうな程思い詰めてる様子だから、これが私が思い付く限りの最良の方法。

「死ぬのが怖い。人を殺してしまうのも怖い。殺し合いなんてやりたい人が勝手にやってやればいいじゃない!」
「うん」
「なんで、なんで私が……ってそりゃ私が友江を庇ったからだけど。『なんで自分が』って思ってる私もいて、あのまま庇わなきゃよかったんじゃないかって思ってる最低な私もいて、そんな自分を友江に知られるのが死ぬのよりも怖くて、誰にも話せなくて……!」
「うん、私が聞いてあげるから大丈夫だよ」
「もうやだ! いっそ逃げちゃいたい。でも大口叩いた以上、逃げられなくて。逃げたら友江がハルマゲドンに駆り出されるかもしれなくて……。」
「うん」
「怖いよぉ、辛いよ! もうどうしたらいいのかわからないよぉ……」
「命ちゃんが好きな様になさい。たとえ何もかもを捨てて逃げても私は責めないよ。殺し合いなんて怖いもんね。仕方ないよ」
「でも、そしたら友江が、友江が……!」
「うん、難しいところだね。自分と友江ちゃん、どっちを選ぶか。そう簡単に選べないだろうけど、じっくり後悔のない様に選択なさい」
「後悔の無いように……」

命ちゃんはしばらく黙りました。
再び時を刻む音だけが静寂を支配します。

それから再び口を開いたのはおおよそ二十分程経った時でした。

「やっぱり、逃げない。ここで逃げちゃったら戦って死ぬよりも後悔する気がする。だから逃げない!」
「そっか、いい子いい子」
「色々聞いてくれてありがとね。溜まってた思いを吐き出したせいか気分が軽くなったよ」
そう言って微笑む命ちゃんは憑き物が落ちたような晴れ晴れとした雰囲気をまとっていました。
少しは役に立てたのでしょうか。
身体的な安らぎを与えるのが布団である私の役割ですが、精神的な安らぎも多少なりとも与えられたとなればこの上ない満足です。
「よし、今なら眠れそうかな。本当にありがとね、お陰で吹っ切れたよ。おやすみなさい」
「また何かあったらいつでも言ってね。おやすみなさい」

普段寝付きの悪い命ちゃんですが、今回はすっと落ちるように眠ってしまいました。
その可愛らしい寝顔は欠片も迷いが見えない安らかな表情でした。

【END】