はじめに
複合装甲 ―― その仕組みと利点
はじめに
- 正直、中間に水入れるメリットはないと思う -- Aさん(仮名)
- どっかにあなあいたらそっから浸水して回路を破壊する確率が上がる -- Aさん
- どうだろ -- Bさん(仮名)
- 戦車の構造に依るけど、正面装甲に水流入れてもメイン回路には浸水しなさそう -- Bさん
- まあ構造にも依るけど -- Aさん
- 少なくとも、ないものよりも確率が上がるのは確か -- Aさん
これは、とある日の軍事部員のやりとりです。
ここでAさんの「中間」とは、戦車の外装甲と内装甲のあいだ ―― つまり、「複合装甲」と呼ばれる構造において、内部水流の行きわたる空間のことを指します。
Aさんはこの会話で、戦車の装甲に穴が空いたとき、水流が戦車砲のレッドストーン回路を破壊してしまうのではないか?という指摘をしています。
もちろんそれは、Minecraftの戦車戦では大いに発生しうる状況です。戦車の天板が破壊されて、真上から降ってきた水が、回路をあっという間に破壊してしまう……。大変なことです。継戦能力が無に帰します。場合によっては、漏水に気づかずにトリガーを押して、暴発・大破などということも。
しかし、ただそれだけを理由に「メリットはない」と言い切ってしまっていいのだろうか? という疑問を否むことはできません。複合装甲を使って水流による自壊を許してしまうのと、複合装甲を使わずに敵に撃たれるのと、比較をしてみる必要があります。一体全体、どっちの方がヤバいんだ?ということです。
読者のみなさんもご存知であろうと思いますが、事実として複合装甲は、戦車の生存性を高める技術として、非常に単純かつ有用です。先人により提唱されて以来、複合装甲は、姿を少しずつ変えながら、非常な長きに渡って用いられてきた技術です。その歴史には、理由があります。
そこで、ここでは次のような内容を検証・解説します:
- 複合装甲ってどういう仕組みなんだろう?
- 複合装甲はどうして優れているんだろう?
ぜひこの記事を読んで、複合装甲をよく理解し、実際の開発に役立ててみましょう。
もう豆腐なんて言わせない。作り方を工夫すればするだけ、あなたのブロック戦車は、びっくりするほど硬くなります!
なお、この記事では、軍事部Wikiではあまり見られない注釈機能を使っています。それも一緒に読んでいただくと、記事の理解がより深まります。
TNTと水 ―― 対(耐)水弾とは?複合装甲をわかるために
四角形の面積の公式 ―― 「縦かける横」を理解するには、「かけ算」を知らねばなりません。同じように、ものを理解するには、まずはそれを組み立てている要素についてしっかり知らなければいけません。
装甲とは、砲弾から身を守るための最初にして最後の装いです。そこで、装甲を知るとは、その装甲が耐えるべき砲弾を知るということになります。
すこし、軍事部の歴史の話をさせてください。
Minecraft軍事部 ―― もともとはニコニコ動画・静画のタグとして生まれた言葉です ―― がまだ始まったばかりのとき、そこにあったのは、最も単純なTNTキャノンばかりでした。すなわち、TNTの”炸薬”を用いて、同じくTNTである裸の”弾頭”、独自のことばを使うのであれば、現在言われるところの「通常弾」を発射するキャノンです。
軍事部員たちはしばらく、「飛距離を伸ばす」、そして「弾頭を増やす」ということに没頭していきます。まだディスペンサーさえゲームになかった時代であれば、TNTを積み上げたり、ピストンで試行錯誤したり。ディスペンサーが追加された後には、今度はTNTの起爆時間との戦いになったり……。
しかし、そんな米帝的な技術競争に終止符を打ったのが、「水」でした。
水を兵器にかぶせただけの、水流装甲というものは非常に便利です。たとえばこういう構造:
この装甲に掛かれば、通常弾は原則すべて無効化されます。どれだけ飛距離を伸ばしても、どれだけ弾頭を増やしても、水の中では無力なのです。今日でも多くの戦車で、あるいは発展して複合装甲となって使用されているのは、みなさんも良くご存知でしょう。
正確に言えば、水が爆発を防ぐということはすでに知られていましたし、ある程度意識はされていました。そもそもキャノンの炸薬自体がこの性質を利用したものです。海や川の底を掘削するための「対潜爆雷」と呼ばれる機構も当時すでに存在していました。しかし、どうあがいても破ることのできない「水」は、軍事部の、とりわけ陸上兵器を取り扱う人々の間では、さながら現在の黒曜石のように ―― 明らかなタブーではなかったにしても ―― 仮想敵としては最初から想定されていませんでした。
しかし、炸薬や弾頭に関する終わりのない技術競争がいよいよマンネリ化しはじめたあたりで、軍事部員はいよいよ、腰を据えて水と向き合うこととなります。対水弾が、本格的にはじまります。
ここで対水弾の原理をご紹介します。次にお見せするものが、この原理を最も簡単に表しています。
下に見えるのは、グロウストーンの上に水を張ったプールです。その上にTNTと砂があります。
レバーをONに切り替えることで、TNTブロックは着火され、落下します。それにより、支えを失った砂ブロックも同じく落下します。
着火状態のTNTは、砂や砂利などの落下ブロックが同じ座標に入ってくることを妨げません。
つまり2つのブロックは、落下地点で重なることになります。
実際に、ONにしてみましょう。
お見事!TNTは水に浸かっていたように思われるのに、グロウストーンは破壊されてしまいました。
でも、どうしてこうなるのでしょう。
ここでもう一度。水中では、TNTは無効化されます。
しかし、この現象の正体は一体なんなんでしょうか。ひとつの答えがあります。
TNTの爆発の衝撃は、TNTを中心として、その周りに広がっていくものだ、とイメージしてください。
TNTの衝撃は、当然TNTと同じ座標にも加わります。そこから広がっていくのだとイメージするのです。
その上で、TNTが水と重なっているとき、爆発による衝撃は水にすべて吸収されてしまうのだと捉えてください。
では、対水弾はどうして無効化されないのでしょうか。
砂が水に対して落ちるとき、落下地点の水源は砂に上書きされる形で消滅します。
つまり対水弾の場合、水ではなく砂がTNTに重なっているのです。
このとき、TNTはあくまでも砂の中にあるのであり、決して水の中ではないのです。
それゆえ、TNTの衝撃は、自身と重なっている砂ブロックに対して作用します。
またそれによって、砂に隣接していたブロック、さらにそれに隣接していたブロック、……。と、順番に衝撃が伝わっていくのだ、そういうイメージをしてみてください。
ただし、TNTの衝撃は実際には一瞬で伝わるので、隣の隣の隣の……と広がっている途中でグロウストーンに水が流れ込んできて吸収される、ということはありません。
これが対水弾の原理です。このようにして水は破られることとなったのです。そして対水弾の開発が進むにつれ、最も単純な部類の水流装甲は、その効力を失っていくことになります。
なお、対水弾についての主な説明はここで終えることになりますが、もう少し補足しておくと、
- 砂や砂利、金床など、支えを失うと落下するブロック類は、単に地面に垂直に落下するばかりではありません。
- 落下中のそれらに、炸薬により衝撃を与えることで、TNT弾頭のように”発射”することができます。
- それらの落下するブロック類を、着火されたTNTと重なるように発射することで、みなさんもご存知の、実際のキャノンとしての「TNT対水砲」を作ることができます。
- 実際に作ってみるとけっこう調整が要ります。読者の皆さんに各自で研究していただきたいと思います。
複合装甲、その仕組みと利点
そもそも簡単に紹介すると、複合装甲とは、「水・石・水・石」というふうに交互に配置され、装甲の深いところまで工夫された装甲のことです。
次のような画像は、複合装甲の構造を比較的簡単にあらわしたものになります。すでに対水弾が準備されています。この構造を装甲Aとします:
複合装甲においては、装甲内部は何重かの層になっています。そのため、装甲の外側から順に、一層目、二層目と書くことにします。
この複合装甲を、以前にも貼った水流装甲の画像と見比べてみてください。こちらを装甲Bとします:
さて、結局、この文章で説明したいのは、つまるところ装甲Aって装甲Bと比べて何がいいの?という疑問への解答でした。
いよいよそれを、ここから検証していきましょう。
対水弾に関する解説で、プールの底のグロウストーンが破壊されたのは、砂→グロウストーン→他のグロウストーン→……と衝撃が伝わっていったからだということをお話したと思います。
この考え方によれば、装甲Bにおいては、設置された対水弾の衝撃は「対水弾→土→隣の土→隣の土→……」と伝わっていくはずではないでしょうか。
実験してみましょう。
このようになりました。
予想どおりの結果です。装甲の一番外側から伝わってきた衝撃が、装甲の表面から3ブロック分も深い土までを抉り取っています。もしも装甲Bが実際のTNT戦車砲により撃たれ、TNT何十発分にも及ぶ衝撃を加えられたとしたら、たとえこれが石レンガの装甲であったとしてもひとたまりはありません。
では、装甲Aで実験してみた場合、どうなるでしょうか。
結論から示すと、このようになります。
便宜上配置したガラスこそ破壊されましたが、装甲Aの二層目には全くダメージが及んでいません。
先ほどTNTの爆発の衝撃についてくわしく書きました。この考え方を、この実験にも引き続き使っていきます。
上の写真は、「水と重なっているTNTが、壁の隣にある状態」であると解釈してください。
砂ブロックは、この写真では壁です。TNTは”裸”であり、通常弾のような状態です。
もう一度確認しますが、このようなときには、TNTの爆発の衝撃はすべて水に吸収されてしまいます。この現象を私たちは、「TNTが水に無効化される」と短く呼んでいるのです。
さらに、次に示す画像をご覧ください。このような場合にも、TNTの衝撃は砂には届かないことに注意してください。
TNTの爆風の衝撃は、TNTそのものの座標を中心にして広がっていきます。
そして、衝撃の広がった先に水がある場合には、その水にも衝撃が吸収されてしまいます。TNTと水が重なっていた場合と同様です。
さらに、これも水がTNTと重なっていた場合と同様に、その水から衝撃がさらに広がることはありません。
とにもかくにも、TNTの爆発は、水によって衝撃が吸収され、遮断されてしまうのですね。
つまり、「対水弾→土」と伝わったTNTの衝撃が、「土→水」の段階で水に吸収されていた。その結果、「水→土」のように衝撃が伝わることはなかった。
これが、先ほどの実験で起こっていた現象の正体です。
対水弾とは、TNTや爆発の性質そのものを変えているわけではありません。
どちらかと言えば、TNTの爆発が通用する環境を、砂によって無理やり作り出しているのです。
ここまでの話を踏まえると、複合装甲とは、対水弾の技術で作り出された、TNTが水を貫通する環境を、さらに無効化するための技術である。そのように言い表すべきでしょう。
かつてどれだけキャノンの威力を強めても決して水を貫くことができなかったのと同じように、たとえTNTの何十発が対水弾の一撃に込められていたとしても、複合装甲が用いられるかぎり、その初撃は二層目にはほとんど伝わらないのです。
もちろん、一層目を破壊された複合装甲に、もう一度対水弾を撃ち込んでしまえば、複合装甲はもう一層貫かれることになります。
しかし逆に言えば、たとえば100層から成る複合装甲を作ったとすれば、99回までは対水弾をほぼ必ず耐えられる、そういうことになるのです。
Minecraftで実際に作られるブロック戦車は、幅は7~11ブロック、全長はせいぜい20~30ブロックほどになります。現実的には、対水弾に耐えられる回数は数回程度です。しかし、技術は常に発達しています。現在の複合装甲は、この解説中の装甲Aほど単純な形状ではありません。防御力を少しでも高めるべく、複雑な形状を取るようになってきています。そうして開発される優れた複合装甲であれば、たとえ装甲に使われる領域が狭かろうと、多くの対水弾を弾くことも夢ではないのです。
この文章を書くきっかけは、軍事部員の次のやりとりであったと初めに述べました。
- 正直、中間に水入れるメリットはないと思う -- Aさん
- どっかにあなあいたらそっから浸水して回路を破壊する確率が上がる -- Aさん
- どうだろ -- Bさん
- 戦車の構造に依るけど、正面装甲に水流入れてもメイン回路には浸水しなさそう -- Bさん
- まあ構造にも依るけど -- Aさん
- 少なくとも、ないものよりも確率が上がるのは確か -- Aさん
「中間に水を入れるメリットは、本当にないのか」。その答えは、読者のみなさんがすでにお持ちであると思います。
回路の保護を理由に複合装甲の搭載を見送ってしまったとしたら、あなたの戦車は、対水弾により一発で破壊されてしまいかねません。
逆に、複合装甲を搭載した戦車が対水弾を3発や4発撃たれてしまって、その傷から回路部分に水が漏れてしまったとしても、その戦車は、2発や3発分は、ただの水流装甲を搭載していた場合よりは長生きできたのだということにほかならないのです。
複合装甲とはこのように、Minecraftにおけるブロック戦車の生存性を大幅に高める、非常に優秀な技術であると言えます。
ぜひ皆さんも、この技術を存分に用い、軍事部での開発生活を豊かなものにしていきましょう。
あとがき
本稿は、2014年の夏に原著者が作成したものを原本とし、同じ著者により全面的に改稿を行ったものです。
改稿者は既にMinecraft軍事部@wikiを退いた身でしたが、2019年12月、Wiki運営に携わっておられる方に自ら改稿を提案し、ご快諾をいただいた上、代理で更新していただいた文章になります。
ご協力いただいた関係者の各氏には心からのお礼を申し上げたいと思います。
解説に見られる誤り、文章や画像に見られる改善の余地、これらは全て筆者の過失による瑕疵です。
Minecraft軍事部@Wikiのアカウント所有者であれば、誰でもこの内容に加筆・修正を行うことができます。
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