Never Forget


あーあ、我ながらホント何やってんだか……。

あたしは猛烈な後悔の念に襲われていた。
本当は、ガンガンと割れるように痛む頭を抱えたかったのだけど、それはできなかった。
なぜって、今のあたしは古めかしい椅子に座らされて、
麻縄でそのままグルグル巻きに縛り付けられているのだから。

なんでこんなことになってしまったのかは、とてもじゃないけど教える気にはなれない。
相棒と珍しく大喧嘩して、夜の繁華街に一人繰り出してヤケ酒を飲みまくり、
はしご酒を繰り返して怪しげなバーにたどり着いてついには酔い潰れ、
目が覚めたらこんな風に誘拐、拘束されていたなんて。
こんな恥ずかしすぎる状況、人様には絶対に知られたくないし。

二日酔いでまったく働かない頭に鞭打って、
あたしは辺りを見回し今置かれている状況を確認してみた。

武骨な石壁で造られた広い玄室。
窓もなく、壁に点在する松明が室内を怪しく照らし出す。
部屋の奥には大きな祭壇があり、そこには3mは優にあろうかという
神様というより悪魔に近いような不気味な神像が祀られている。
そして、祭壇の前で一心不乱に祈祷している漆黒の法衣を纏った坊主頭の大男。

うん、これは間違いなくまずいヤツだ。
ここまでわかりやすい邪神崇拝が今時おこなわれているなんて、時代錯誤もいいところ。
そんな場所に連れ込まれたあたしの役割といえばやっぱり……。


気配を察知したか、男が祈祷を止めてゆっくりとあたしの方へ向き直った。

「ふむ、ようやく気が付いたか。
恐れることはない。お主は我が神の生贄として選ばれたのだ。
これで捧げる供物も10人目。本日の儀式でついに我が神の復活が実現するのだ。
このような慶事に立ち会えたことを感謝するが良い」

男は抑えきれないように高笑いを響かせる。
そういえば、この街で連続失踪事件が起こっているというニュースを耳にした記憶が。
つまりこいつがその犯人というわけか。

ヤケ酒をきっかけに、なんかとんでもない騒動に巻き込まれてしまったけど、
この困った事態を一体どうやって切り抜けよう。

いくらなんでもこのまま生贄に甘んじるわけにはいかないし、
誰にも気づかれず煙のように逃げ去ることができれば理想なのだけど、
さすがにそれが許される状況ではなさそうだし。

いっそ力ずくで強引な手段を採るのが手っ取り早いんだけど、
あんまり大ごとにしてしまうと後始末が大変だし、
その後の苦労や叱責を思うとできればやりたくない。

ただ他にいい方法があるかというと……。

二日酔いの回らない頭では、まともにいいアイディアが思いつくはずもなく、
思考を遮るような男の高笑いに段々とイライラが高まってくる。

あーもういいや! これ以上考えるのも面倒くさい!
どうせ今ここにいるのはあたしとコイツだけだし、一思いに暴れちゃおうか!!

短気を起こしたあたしが行動に移そうとする、その直前。

部屋を照らす松明の炎が、突如青白い光を発してより大きく燃え盛った。

「どうやら我が神殿にネズミが紛れ込んだようだな。
もしやお主を救出にきたということか?」

笑いを収めた男の言葉で、あたしの脳裏には咄嗟に相棒の顔が思い浮かぶ。
本当にあたしのことを助けに……!?
いやまさか、そんなはずはないと思うけど。

そして男も、どうやらあたしと同意見のようだった。

「いや、それだとさすがに行動が早すぎるな。
まあよい、まずは様子を確認してみるか」

男が玄室の壁を指し示すと、壁面が大きなモニターと化し、侵入者の様子を映し出す。
そこには、辺りを警戒しながら石畳の通路を進む少女達の姿があった。

隠密行動ということもありその腕に腕章はないけれど、見る人が見ればすぐにわかる。
間違いない、彼女達は執行魔道士の小隊だ。

「ふむ、協会に嗅ぎつけられたか。
こんなガキどもを送り付けてくるとは我もなめられたものだが、
我が神復活の前の余興としてはちょうど良いかもな。
どれほどの実力を持つものか、せいぜい楽しませてもらおうか」

魔道士協会の介入を知っても物怖じすることなく、
男はまた迫力のある哄笑を玄室に響かせた。


思わぬ第三者の出現にやる気を削がれたあたしは、
感情任せの暴走はやめて、ひとまず状況の推移を見守ることにした。

モニターと化した壁面に映っているのは若い、というより幼さも残るような8人の少女達。
慎重に行動していた彼女達だったけど、男の巧みな誘導により大広間へと誘い出されていた。

入口の扉には抗魔仕様の頑丈な鉄柵が降りて、もう後戻りできない。
そして前方には何十体という屈強なゴーレムが取り囲み、
緩慢な動きで彼女達に襲い掛かろうとしていた。

「これくらいの試練は乗り越えてもらわんと興ざめというものだが、
はたしてどれだけ楽しませてくれるかな」

このような危機に直面しても、日頃からしっかり訓練がされているのか
彼女達に動揺の様子はなかった。

「フォーメーションは『ケンキョにダイタン』。みんないくよ!」

若くして肝っ玉母さんの風格のある娘(おそらくこの娘がリーダーだろう)より指示が飛び、
まずメンバーの中で一番体格のいい娘が前に出てきた。

ふんわりと柔らかい雰囲気を持つその娘が、
グッと腰を下ろして大きく片足を挙げ、力強く四股を踏む。

ズドンッ!!

強い震動がゴーレム達の足元を襲い、隊列が崩れる。
その隙を逃さず少女達が一斉に散開して、難敵に挑みかかっていった。


どうやら彼女達は、その身体に魔力を纏わせて自らのこぶしで敵を打ち倒す、
武闘派タイプの魔道士小隊のようだ。

2人1組で連携しながら複数の相手に囲まれないように素早く動き回り、
一体一体ゴーレムを各個撃破していくその様はかなりの実力を感じさせる。
特にスラリとしなやかな肢体を持つ美少女(顔はちょっとカエルっぽくて愛嬌もある)が
キレのある動きでゴーレム達を翻弄しており、おそらく彼女がこの小隊のエースだろう。
背中を守る親近感のある特徴的な顎の娘も、あまり目立たないけど確かな腕の持ち主だ。

でも、みんながみんな見事な連携を見せているわけでもないみたい。
誰もが一番に目を向けそうな美形の娘と、小柄でこちらもいい顎をしている娘の2人は、
いかにも連携がかみ合わずにギクシャクしているのがはた目からもすぐにわかる。
ついにはお互いの腕がぶつかり、バランスを崩したところをゴーレムに攻めたてられ、
ギリギリのところでどうにか身をかわして難を逃れるというなんて危機一髪の瞬間も。

「ちょっと危ないじゃないのよ!」

「そっちの方こそしっかりやってくれる!?」

現在の状況を忘れたかのように、その場で激しい口喧嘩を始める2人。
もちろん戦場では致命的な愚行で、チャンスとばかりゴーレム達が群がってくる。

このままでは間違いなく2人ともボコボコにのされてしまうだろう。
早く誰か2人のフォローに入らないと。

ところが。

口喧嘩は続けながらも、襲い来るゴーレム達をさばいていなして反撃して、
2人で次々と撃破していく。
その連携はさっきまでとは比べ物にならないくらい完璧なもので、
どうやらこの動きこそが彼女達2人の本領発揮ということなのかな。
周りが2人の口喧嘩に慌てた反応を見せなかったのも、これが日常茶飯事のことだからっぽい。

「喧嘩するほど仲がいい」というか「喧嘩するほど強くなる」だなんて、
なかなかにいい個性をしてると思う。


「キャアッ!!」

ほっそりとしたエキゾチックな雰囲気を持つ美少女が、
ゴーレムに両手でガッチリと喉元を掴まれ、苦しげな悲鳴を上げた。
どうにか振りほどこうともがいているけど、力の違いが顕著でどうにもなりそうもない。
これは今度こそ間違いなくピンチのようだ。

ゴーレムはそのまま高々と両手を掲げる。
プロレス技で言う「ネックハンギングツリー」の体勢だ。
少女の身体は軽々と宙吊りにされ……

て、いなかった。

少女の足元はしっかりと地面についたままだった。
そして、頭は確かにゴーレムによって高々と持ち上げられている。

そんなことが実際に起こり得るの?
なんて自問してもしょうがない。だって実際に起こってしまっているのだから。

宙吊りにされていない理由は簡単。
彼女の首がまるでゴムのように長々と伸びていたから。

首を掴まれたままドSな笑みを浮かべた少女は、
地に着いた足で強烈な前蹴りを決め、首を掴んでいたゴーレムを粉砕した。

それだけでは終わらない。
その伸びたままの首を、最初に先陣を切った体格のいい娘がガシッと掴み、
ハンマー投げの要領で少女の身体を大きく振り回し始めた。

振り回されながら放つ少女の鋭い蹴りが凶器となり、
周りにいたゴーレム達を次々となぎ倒していく。

こんな規格外の大技は、さすがのあたしも初めて見た。
なんて個性的で面白い集団なんだろう。


あたしが感心しているうちに何十体といたゴーレムは見事に殲滅され、
最後にリーダーとコンビを組んでいたショートカットの娘が
ゴーレムの破片をジップロックに回収したところで、完全に一段落した。

「……だからいつもいつもこんなことに!!」

「それはお互いさまでしょ!!」

いや、終わっていなかった。
戦闘終了も関係なく口喧嘩を続ける2人の間に、体格のいい娘が歌いながら割って入る。

「♪けんかをやめて~二人を止めて~私のために争わないで~」

「「あんたのために争ってんじゃないから!!!!」」

2人のツッコミが綺麗に揃ったところで、今度こそようやく一段落ついたようだ。


「ふん、思ったよりはやるようだな。
それでは我が直々に此奴等を、我が神への供物としてやろうか」

思わず立場を忘れて彼女達の活躍に見入ってしまったけど、
この怪しげな男相手にどこまでその力が通用するのやら。

それ以上に、このままだと椅子に縛りつけられた恥ずかしい姿を彼女達に見られると思うと、
その情けなさにあたしのテンションは低下する一方だった。



ゴーレムの群れを撃退した執行魔道士の少女達は、
ついにこの玄室までたどり着き、邪神復活を目論む男と対峙していた。

緊張した面持ちで男を見据える少女達とは対照的に、
男の方は祭壇を背に余裕の表情を崩すことはない。

そしてあたしは壁際で相変わらず椅子に縛り付けられたまま、
期せずして2組の睨み合いを真横から観戦する絶好のポジションにいた。

ちなみに直前でこっそり使った「隠れ身の魔法」のおかげで、
あたしの存在は彼女達には気づかれていない。
この魔法は、男のようにすでにあたしの存在を把握している相手には全く効果がないけど、
事前に気づいていない相手にはあえて能動的に目立つ行動をしない限りは
そのまま見つからずにいられるという、今のあたしにとってはピッタリの魔法。

この魔法のことを思い出したおかげで情けない姿を見られることがなくなり、
あたしは一度落ち込んだテンションをどうにか回復させることができた。


ゴーレム相手では楽勝といってもいいくらいだった少女達も、
ラスボスのこの男には苦戦を強いられていた。
いや、手も足も出ない状態になっていた、という表現の方が適切かもしれない。
なぜって、男が纏う闇の衣の影響により、攻撃どころか
まともに近づくことさえ困難を極めているのだから。

波状攻撃でどうにか隙を見出そうと必死に奮戦するものの、
男が大きく腕を振り払うと、全員が簡単に吹き飛ばされ壁面に叩きつけられた。

苦し気な声を上げながらもどうにか立ち上がったけれど、
その動きにはダメージが残っているのがはっきりと見て取れる。
それでも、この厳しい状況の中みんな決して諦めの様子を見せることはなかった。

「みんな、ここが勝負時! フォーメーション『猪突猛進』。いくよ!!」

リーダーの激に、全員の目の色が変わった。
8人が勢いよく散開し雁行態勢を取ると、身体全体でリズムを刻み始め、
それとともにみんなの魔力がどんどん増大していく。

チョット!チョット!チョット!チョット!猪突猛進!!!!

「カモ~ンナ!!!!!!!!」

8人で息を合わせて繰り出す合体魔法が強烈な衝撃波を生み出し、男の纏う闇の衣を突き破る。
そのまま勢いを減じることなく男に直撃すると、男の身体は黒い塵となって四散した。


へー、この魔法を受け継いでる人間が、今の世の中にまだ存在してたんだ。

それまで冷静に一歩引いて戦闘を見守っていたあたしは、そこで初めて心を動かされた。

合体魔法として進化させていることもあり、確かになかなかの威力をしている。
でも、残念だけど魔法としてはまだ未完成。それに相手もちょっと悪かったみたい。

ついに難敵を撃破したと、彼女達の気持ちが多少なりとも緩んだことを、
さすがに責めることはできない。
でもその一瞬の隙が命取りだった。

四散した塵が再び参集し、黒煙のように揺らめく巨大な人間の顔を象った。

「ヨモヤ我ガ本性ヲ現スコトトナロウトハ、侮ッタワ。
ダガ、コレデ遊ビハモウ終ワリダ」

無機質な声とともに、男の口から闇のブレスが放出されて小隊の面々に襲い掛かる。
身構える余裕すらなくブレスの直撃を受け、次々と倒れていく少女達。

耐え切れずに気絶する娘。意識は残しているもののまともに動くことすらできない娘。
どうにか再び立ち上がることができたのは、エースの娘ただ一人。
しかも見るからにフラフラで、反撃など到底望めそうにない。
間違いなく、もう一度同じブレスを喰らったら全滅必至だろう。

男の強さの秘密がこれでようやくはっきりした。
とっくのとうに人間をやめていたわけね。
この娘達も、残念だけど相手が悪すぎたと諦めるしかなさそう。


両者の戦闘の間隙をついて、あたしはさっさとこの場から立ち去るつもりだった。
この娘達がやられたら、男の望み通りに邪神の復活が実現してこの街が、
いや、周辺都市の1つや2つ壊滅してもおかしくないほどの甚大な被害を及ぼすだろう。

それでも、このあたしが下手に介入して未来に余計な悪影響を与えてしまうという、
そのリスクに比べればそれもやむなしだと割り切り、非情の決断にも躊躇することはない。
そのはずだったんだけど。


あっさりと束縛の縄を解いたあたしは、立ち上がりゆっくりと歩を進める。
……少女達と男の間にちょうど割り込むかのように。

そして、驚きで目を見開くエースの娘を尻目に、
(彼女にとってはあたしが闇の中から突然湧いて出たように見えたことだろう)
彼女達を背中に庇う形で男の前に立ちはだかった。

「ナンダ、オ前モ一緒ニ死ニタイトイウノカ。
デハソノ願イ、叶エテヤロウ」

あたしの気が変わった理由は、彼女達のあの魔法。
あんな姿を見せられて、その上で彼女達を見捨てるなんてことは、
とてもじゃないけどあたしにはできやしなかった。


「見てなさいあんた達、本家本元の姿ってやつを」

背中へと言葉を投げかけ、あたしは身体全体でリズムを刻み始める。
頭の中に響く懐かしいメロディー。久しぶりに感じるこの高揚感。
体内で魔力が急激に高まっていくのがはっきりとわかる。

男の口から、再び強力な闇のブレスが放出される。
あたしの身体を包み込もうとしたその瞬間、般若の形相で男を睨みつけて
気合に満ちたその魔法が完成した。

「カモ~ンナ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

先ほど少女達が生み出したものとは比べものにならない衝撃波が
闇のブレスを吹き飛ばし、黒煙と化した男を再び四散させる。
でも、この魔法の真骨頂はここからだ。

「グアアアアアァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!」

四散した塵の一つ一つが突然燃え上がり、男の断末魔の叫びが響き渡る。
これは地獄の猛火。全てを燃え尽くすまで消えることがない。

この「カモンナ」の魔法は、最後に自分の属性の攻撃を付与することにより
相手を完膚なきまでに叩き潰すことで本当の完成となる。
残念ながら彼女達は、その一番重要な部分までは受け継いでなかったみたいだけど。

そして断末魔が収まった時、男はこの世から完全に消失していた。


それにしても、ただでさえ二日酔いの最悪な体調の中で
久しぶりに強力な魔法を使ったから、さすがにちょっと疲れたかもしれない。

大きく息を吐いて、あたしは軽い笑みを浮かべながら彼女達の方へと振り返る。
あたしの視界に入ったエースの娘は呆然としていたけれどすぐに、
さっきあたしの姿を目撃した時以上に、大きくその目を見開いた。

その視線はあたしの後方に向けられた状態で。

そう。あたしとしたことが、先ほどの彼女達と同じような
あるまじき油断をしてしまったのだった。

異変を感じて振り向くと、祭壇に祀られた3mは優にあろうかという邪神像が、
音もなく立ち上がり、丸太のような腕をあたしに向かって振り下ろしていた。

邪神の復活。
10人目の生贄。

あの男は、自らの命さえも邪神の生贄となるように細工を施していたのか。

ようやく気付いてもすでに遅い。もう魔法を唱える余裕も回避する余裕もない。
あたしは身を固くして、せめてもこれから振りかかる衝撃に備えた。


「カモ~ンナ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

三度、玄室に響き渡るこの魔法。
目も開けていられないほどの眩い光が部屋全体を包み込む。

この「カモンナ」の魔法は光属性。
普通の人間には影響がないけど、闇に属する相手には絶大な効果を発揮する。
10人やそこらの生贄で復活できる程度の邪神にとっては、まさに致命的だろう。

そんなあたしの見立て通り、邪神は声をあげる余裕すらも与えられず
光に溶けて瞬く間に消滅した。

そして、この光属性の「カモンナ」を操ることができるのは、この世でただ一人。
それはあたしの相棒だけ。

慌てて周りを見渡したあたしは、玄室の入り口に相棒の姿を見つけると、
迷うことなく駆け寄ってその胸へと飛び込んだ。


「よっすぃ~!!!!!」

「危機一髪だったね、梨華ちゃん」

この惨状に本当は色々言いたいこともあるだろうに、
そっと抱き留めて優しい言葉をかけてくれるのが、よっすぃ~の男前なところだと思う。

「これ以上長居するわけにもいかないし、さっさとここを出るよ。
後のことはこの娘達に任せてさ」

よっすぃ~が目を向けた先にいた執行魔道士の少女達は、
気づけばエースの娘も含めて全員が気絶していた。
本来普通の人間には影響がないはずの光属性の「カモンナ」も、
傷つき限界が近かった彼女達にとっては光の衝撃にすら耐え切れなかったみたい。

ちょうどいいとばかり、最後にみんなからあたし達2人の記憶を消し去り、
こうしてようやくあたしは、この忌まわしき邪神の神殿から脱することができた。


ちなみに少女達は、邪神の復活を阻止したことが評価されて、
魔道士協会よりその年の「最優秀新人小隊」として顕彰されたなんてことを、
後日風の噂で耳にしたけれど、まあそれはまた別のお話。



それからあたしも無罪放免というわけにはいかず、
ケメコの住処に連れていかれて、よっすぃ~とケメコの2人からコッテリと絞られた。

まあそれだけのことをしでかしたのだから、いくら叱られても仕方ないのだけれど。

「すでに表舞台から身を引いたうちらは俗世間の揉め事に一切関知しないってのが、
うちらにとって大前提の不文律でしょうが。
ただでさえうちらは周りへの影響力が大きいんだから、
ほんの少し関わっただけでどれだけその後の未来に重大な歪みを与えてしまうか
わかったもんじゃないんだからね」

「そんなことケメちゃんに言われなくてもよくわかってるわよ」

「だったらなんで……」

「あたしだって本当は、最低限の関わりで退散するつもりだったんだけどね。
魔道士協会のあの娘達が使った『カモンナ』の魔法を見たら、
そういうわけにもいかなくなっちゃったのよ。
あれは、あたしとよっすぃ~とそしてかおたんの3人で開発した、
あたし達にとって思い出深い魔法だったんだもん」

「そうだね。あれは完成までに苦労したんだよなぁ。
かおりんの使う宇宙属性の『カモンナ』の魔法がまたえげつないんだ。
最後に小さなブラックホールを作り出して相手を異次元空間に放り込むんだからさ」

遠い目をしながら、懐かしそうによっすぃ~があの頃を振り返る。
良かった、どうやらよっすぃ~もあたしの気持ちをわかってくれそうだ。

「あの魔法はあたし達3人だけのもので、今の世の中に継承できる魔道士なんて
存在しないとばっかり思っていたのに、目の前にそれを操る娘達が現れたのよ。
あの『カモンナ』の魔法を使えるということは、
それはきっとあたし達の想いも受け継いでいるということ。
そんな娘達が目の前で殺されそうになっているのを見て見ぬふりするだなんて、
あたしにそんなことできるわけないじゃないのよ」


「うーん、善し悪しはともかく梨華ちゃんらしいよね」

よしこはホント梨華ちゃんに甘いんだから、なんてケメコのボヤキもありながら、
どうにかあたしはその程度で説教から解放してもらえた。

「まあ確かに、表舞台からは身を引いたうちらだけど、
せめてその想いだけでも今の娘達が受け継いでくれるというのは嬉しいわよね」

「でもさ、ケメちゃんのキモキャラを受け継ぐ娘なんてまずいないと思うけど」

「よしこ!!」

ケメコに睨まれてわざとらしく首をすくめるよっすぃ~。
この2人は本当に昔から変わらない。

「でも真面目な話、今の魔道士であたし達の想いを受け継いでくれそうな奇特な人間は
そうそういるもんじゃないと思うけどね。
あるとしたら案外……生田のような規格外のヤツだったりして」

冗談っぽく口にしたよっすぃ~の言葉は、きっと彼女の本音。
よっすぃ~に頼み込んで無理やり親友になったというその面白い娘のことを、
生田本人の前では決して言わないけれど、よっすぃ~はかなり高く評価しているようだ。

あたしはまともに会ったことないけど、よっすぃ~がそれだけ興味を持つ
生田というのがどんな娘なのか、今度直接確認しに行ってみようか。

いや、それよりまず師匠のさゆに色々聞いてみるのが先かな。
考えてみればさゆとも随分ご無沙汰な気がするし、久しぶりに会いに行ってみてもいいかも。
そしてさゆとゆっくり積もる話を……なんて間柄でもないけどさ。

なんならいっそ、さゆと2人でエコモニ。を再結成してみたりして!?
な~んて、絶対さゆは嫌がりそうだけどね。


(おしまい)


※参考
こぶしファクトリー『チョット愚直に!猪突猛進』 (Promotion Edit)

https://www.youtube.com/watch?v=GPFwLgz_Tz4

モーニング娘。 『そうだ!We're ALIVE』 (MV)
https://www.youtube.com/watch?v=I_zmewdR-b8

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最終更新:2016年03月08日 23:22