この街に来てから、独りで思い悩むことが多くなった。
この街のこと、道重さんのこと、魔道士という存在について、そして……えりぽんのこと。
今まで知らなかった幾多の事実を目の当たりにした上で、
うちは一体なにをすべきなんだろう。一体なにができるというのか。
これまでは、ただ強くなりたいという思いだけだった。
「敵」と戦って勝つこと、それが自分の存在意義でありそれしかなかった。
それが、強さとはなんなのかその根幹すら揺らいでしまった今では、
なにもできない自分の小ささそして無力さばかりを実感させられ、
ふとした瞬間に頭をよぎり、事あるごとに私の心を苛んでいく。
「硬いね~、硬すぎるよちょっと~」
物思いに沈みこんでいたうちの意識を引き戻したのは、
明るい声と、後ろからうちの肩を揉んでくる手によってだった。
「えっ、あ、ありがとう香音ちゃん。そんなに肩凝ってる?」
自分では気づかなかったけど、確かにこの頃は緊張続きで肩も凝っているかもしれない。
「うん、肩も凝ってるけどさ、一番凝ってるのはここだよ」
肩を揉んでいた両手が、そのままうちのほっぺたを挟み込むように包んだ。
「さっきから表情が硬すぎ。真顔の里保ちゃんもイケメンで悪くないけど、
ずっとそんな顔してたら疲れちゃうでしょ」
手のひらから伝わる香音ちゃんの温かいぬくもり。
「なにを悩んでいるのかはわからないけど、難しく考えていてもいいことないよ。
どうせ人はできることしかできないし、やれることをやるしかないんだから」
ぬくもりを通して感じられる香音ちゃんの暖かい気遣い。
それが心の奥まで染み渡り、凝り固まったうちの懊悩を溶かしていく。
「ありがとう。香音ちゃんはあったかいね、まるで太陽みたい」
頬を挟んでいる香音ちゃんの手の上に自分の手を添える。
言葉にできない感謝の想いを、自分の手を通じて香音ちゃんに届けと念じながら。
「ふふふ、実はうち、太陽の魔法使いなんだよ。なんちゃって」
「そうだね、香音ちゃんの魔法のおかげで元気になれたよ」
「うん、やっぱり里保ちゃんは笑顔が一番だね。
またうちの魔法が必要な時は言ってね。肩ぐらいだったらいつでも揉むからさ」
まだうちの悩みはなにも解消されたわけじゃないけど、
これからは独りで落ち込むことなくきっと乗り越えられる、そんな気がする。
だって、うちには太陽の魔法使いがいてくれるから。
(おしまい)