スプ水先生の奇跡【最終章】  ~羽賀朱音の想い~


朱音に抱きつくと、体の中の96%の疲れがとれる。

はーちんはそんなことを言ってくれた。
だから朱音は、はーちんを100%癒すことができるように、
はーちんに朱音のことを本気で好きになってもらおうと思った。
朱音だったらきっとそれができるという自信もあった。

でもそれは……。
朱音の自惚れでしかなかった。


今年に入ってからかな。
はーちんは、今まで以上に朱音と一緒にいる時間が多くなった。
それもはーちんの方から積極的に、朱音の隣に来てくれるんだよ。

「はーちんに本気で好きになってもらおう」という目標を立ててから、
ずっと朱音の方から意識的に、はーちんにちょっかいをかけてきてただけに、
はーちんが自分でどんどん来てくれるというのはすごい嬉しかった。

はーちんの下らないバカ話に朱音が不愛想にツッコんだり、
はーちんから朱音がツンデレだと抗議されて反抗期だからと言い返したり、
それでも余裕さえあればはーちんに体を預けて事あるごとにくっ付いてたり。

はーちんと一緒にいる時間はホント楽しいし、
この様子なら、朱音がはーちんのことを冗談抜きで100%癒すことも
もうすぐできるようになるんじゃないかな、
なんてついつい調子に乗りそうになったことも事実なんだけど。

でも、はーちんの態度がこれまでとなんか違うことに気づくまで、
そう長い時間はかからなかった。


朱音にべったりで存分に癒されてるはずのはーちん。
確かに朱音と一緒の時間を楽しんでくれてるように見える。
それなのに、ふとした瞬間にはーちんから感じる重苦しい雰囲気。
あれはどう表現すればいいんだろう……。「ショーソー感」ってヤツ?

最初はただの気のせいかと思ったけど、
段々と朱音にくっ付いてくる機会が増えるほどに、
はーちんから受ける違和感も徐々に膨らんできた。


真夜中眠れずに、ベッドの中で独り違和感の正体について考えてみる。
ううん、考えたくなくても頭に浮かんできちゃう。

なんではーちんは、朱音と一緒にいるのにあんな重苦しい雰囲気を感じさせるんだろう。
今までのはーちんだったら、絶対あり得ないようなドンヨリとした感覚。

もしかしてはーちんって……。
何かに苦しんでる??

「苦しんでる」という単語がパッと閃いてから、
朱音の頭の中に一本の筋道がくっきりと浮かび上がってきた。

はーちんが朱音に寄り添ってくる機会が増えたのも、
朱音により好意を持ってくれたとかじゃなくて、朱音のことを頼りたくなったから……。
ううん、それもちょっと違う。朱音にすがりついて現実逃避したかったからじゃないかな。


じゃあ、はーちんをそこまで追い詰めた原因は何なんだろう?

その答えもすぐに見つかった。
そりゃあわかるに決まってるよね。朱音にとって2人とも大切な同期だもん。

さすがに詳しいことまではよくわからないにしても、
あの2人の関係がなんかおかしくなってるってことは、
冷静に思い返してみればすぐにわかる。

別に朱音が現実逃避の手段として利用されたってこと自体は、
嫌だとか腹立たしいとかそんなことは思わない。
それどころか、本当に追い詰められた時に朱音を頼ってくれたっていうのが、
たとえ無意識の内にだったとしても嬉しく思えるくらいだし。

ただ、そんなことより朱音にとって一番ショックなのは……。

朱音を頼ってくれたにもかかわらず、はーちんはずっと苦しみ続けてる。
それって、朱音は今のはーちんをちゃんと癒すことができてないということ。
多分、96%どころか30%も癒せてないんじゃないかな。

はーちんが本当に苦しんでる時に、まともに癒すこともできない朱音。
目標にしてた100%癒すなんて夢のまた夢。

つまり……。
はーちんにとって朱音は、本気で好きになってもらえるような存在じゃないんだ。


急激にぼやける視界。
胸の奥からこみ上げてくる感情。

なんで、なんで朱音は今、こんなにも悲しいの? 
こんなにも涙がこみ上げてくるの??

自分でも訳がわからないままに、枕に顔を埋めて声を殺してただただ泣きじゃくる。
ひとしきり泣いた後、心の奥底から答えが浮かび上がってきた。

そっか。
「はーちんに朱音のことを本気で好きになってもらおう」なんて
それこそゲーム感覚で楽しんでたつもりだったけど……。

そんな朱音の方が、はーちんのことをこんなにも本気で大好きだったんだね。

朱音にその資格がないってわかってからようやく気づくだなんて、
タイミングが悪すぎて思わず笑っちゃうくらいだけど。


別に資格なんかなくってもいい。

朱音は、本気で大好きなはーちんのために。
苦しんでる大切な同期2人のために。
一体何ができるんだろう…………。

うん、そうだよね。

「あかねのやるべきこと、ようやくわかってきたかも」

涙に湿った朱音の呟きは、真っ暗な部屋の天井に吸い込まれていった。


(おしまい)

 

~牧野真莉愛の想い~        ~野中美希の想い~

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最終更新:2017年05月27日 01:59