目を覚ますと、私はスマホとなった井上ひかるちゃんと意識を共有していた。
何故こんなことが起こりえたのか、まったく理解はできない。
でもそんな私の戸惑いを置きざりにして、事態は淡々と進み続けていった。
加賀さんのスマホになれた喜びを分かち合い、
加賀さんの濡れ場を否応なく見せつけられ、
人間に戻れない苦しみに悲鳴を上げる。
そんなサイクルを何度も何度も、ひかるんとともに味わってきた。
そしてついに……。
「私は……。加賀さんのことが好きです。
今の私はもう、加賀さんのことをただ見守っているだけじゃ我慢できない。
だから、私の身も心も、加賀さんに捧げます。
私の……全てを奪ってほしい。これまでみんなにしてきたように」
人間に戻れたひかるんの、秘められた想いを全て吐露した魂の告白。
その告白に応えた加賀さんからの優しい接吻。
そこから繰り広げられる2人の目くるめく艶事を、
独り加賀さんのスマホとして取り残された私は、
締め付けられるような痛みとともに見守るしかできなかった。
『ごめんなさい広瀬さん。私もう、「加賀さん同盟」を続けられない。
一足先に……脱退します』
自分だけ先に脱退するなんてズルいよ! 裏切り者!!
精一杯の私の抗議も、瞬時に懺悔の言葉を快楽の海に捨て去ったひかるんには
もちろん届くことはなかった。
何故私だけこんな目に……。
非道いよ!! 非道すぎるよ!!!
私だって……。私だってみんなのように加賀さんに抱かれたいのに、
どうして独りだけ仲間外れなのよ!!!!
心の奥底から湧き上がってきた隠しきれない本音。
それに答えるように、突然脳裏に誰かの声が響き渡った。
『ごめんね広瀬ちゃん。
これまで貴女達が見てきた光景、みんなが加賀ちゃんに抱かれるという未来は、
ここではないまったく別の平行世界でそれぞれ確かに起こった現実のモノ。
だけどね、さゆみがどんなに懸命に探しても、全宇宙どこの平行世界にも
「広瀬彩海が加賀楓に抱かれる」という未来はまったく存在しなかったの。
だから残念だけど、これも運命だと思って諦めてほしいの』
そ、そ、そんな~!!!!
(おしまい)