まだ昼には早い街中を、私はひたすら走り続けた。
向かう先は、はるなんの家。
家の場所は、初めて会った時に訊いていてわかっている。
そうだ・・・私の家から、意外と近くにあるんだった。
全力疾走。今までこんなに走ったことってあったっけ?
心臓が悲鳴をあげる。膝もがくがくする。
でも・・・構わなかった。止まらなかった。
顔が、体が熱くてたまらないのは、走っているからだけではないと思う。
はるなんに、会う。
そして・・・
わからないこと、彼女のわからないことを、全部訊く。
そう決心したら・・・してしまったら。
なんだかもう、足が止まらないんだ。
『頭で考えずに、全力でぶつかってこい!』
あの人の言葉が胸に響く。
私は、自分で単純だなぁとも思う。
絵が話しかけてくることに、心を動かされてしまって。
あの人が、一体なんなのかもわからないのに・・・
でも、単純でよかった。素直でよかった。
だから、今全力で気持ちよく走ることができているんだ・・・
「・・・彩花さん?」
突然、耳に飛び込んできた言葉は、全く予期していなかった。
だって、まだ目的の家に到着していなかったから。
声にききっと立ち止まって、首をむりやりそっちに向ける。
はるなんが驚いた顔でそこに立っていた。
大きな目が、私の汗だくの顔を見つめている。
「どうして、ここに?」
「はあ、はあ、あ・・・」
息が切れて、言葉がでてこない。
私は、深呼吸をしながら呼吸を整える。
つばを飲み込んで、はるなんに話しかけようとして・・・
ふと、私ははるなんの格好に気付いた。
・・・あ・・・
その服装は、あの美術館で初めて出会った時と、同じものだった。
とても可愛らしいワンピース・・・キラキラで、ハイセンスで、彼女にとても似合っている。
私の視線に気付いたはるなんは、少し顔を赤くして微笑んだ。
その笑顔は、いつもと微妙に違って見えた。
なんていうか・・・なんだろ。
私ははるなんの目を真っ直ぐ見つめて、ゆっくりと、そしてはっきりと言った。
「はるなん、訊きたいことがあって来たの」
「あ・・・」
はるなんが、再び驚いた顔をするのがわかった。私がしっかりとした口調で意思表示をしたことに驚いたんだろう。
それと同時に、私自身も少しびっくりしながらも嬉しくなった。
うん・・・私、ちゃんとうまく話せてる。
「はい、なんですか?」
はるなんは目を細めて、嬉しそうな顔を向けながら訊いて来た。
私は・・・訊きたいことが沢山ある。
今まで、訊いてこなかったこと。はるなんに対して、わからないこと。それを、全部訊いていくつもりだ。
でも・・・何から、訊こう?
何故、この間はいきなり帰ってしまったのか?
何故、今日は来てくれなかったのか?
何故、私と会うときは今みたいな格好じゃなくて地味目だったのか?
何故、私と魔法の話をしなかったのか?
何故、帰り際に毎回楽しかったか訊いてきたのか?
でも、それらよりもまず訊きたい事は・・・
どうしても、訊いておかなきゃいけない事。
だって、大前提・・・これを訊かなきゃ、進まないと思う。
それは・・・
「はるなん」
「はい?」
「はるなんは、私の事を本当に友達だと思っていたの?」
この質問が、私の最大の疑問点だった。
『私と、お友達になりませんか?』
あの時の、はるなんの言葉。
それで、私達は「友達」になった。
でも、私にはわからなかった。友達ってなんなんだろうか。
そんな口約束で、本当に「本当の友達」になるなんて、そんなもんなんだろうか。
友達ができたことのなかった私には、それがずっと疑問だった。
だからまず、それをはっきりさせないことには・・・はるなんの事は何もわからないと思う。
はるなんが、私の事を本当に友達と思っていたのか。
それを訊かない事には・・・何も始まらない。
私ははるなんの返事を待った。
はるなんは、私の顔をじっと見つめ続けている。
その不思議な表情からは・・・何も読み取れなかった。
その時、私の視界が突然歪んだ。
どうやら額の汗が目に入ったみたいだ。
はるなんは、ふっと笑った。笑顔に戻った。
彼女はワンピースのポケットを探ると、黄色いハンカチを取り出した。
「はい、拭いて下さい。汗だくじゃないですか」
「あ・・・うん、ありがとう」
私が素直にハンカチを受け取ってお礼を言うのを見て、はるなんはまた少し嬉しそうな顔をした。
私が額を拭き終わるのを待って、はるなんは言った。
「あなたのさっきの質問はですね・・・私の疑問でもあったんですよ」
「・・・え?」
「だから、今日あなたの家に行ったら、それをちゃんと訊こうと思っていたんです」
そう言って、はるなんはまた笑った。とても気持ちのいい笑顔だった。
「え・・・と、それじゃ?」
「はい。今、あなたの家に向かっている途中でした。まさか、あなたから来てくれるとは思わなかったです」
私は、それを聞いて少し恥ずかしくなった。
・・・ただ、いつもの時間よりちょっと遅れただけじゃないか。
なんたる早とちり。全く、馬鹿だな。
「・・・でも、嬉しかったです」
私が見ると、はるなんの笑顔は今までにないくらいに気持ちがいいものだった。
それは、今まで見た事が無いくらいに・・・可愛かった。
私はその笑顔に・・・何も言えなくなってしまった。
今になって、心臓のばくばくが耳に響いてくる。
・・・もう走り終わってから、時間経ってるから!
「彩花さん、行きましょう!」
はるなんは突然そう言うと、私の手をぎゅっと掴んだ。
「えっ!?」
「こんな道の真ん中では、ちょっと目立ちます。落ち着いて話せるところに行きましょう」
そう言ってはるなんは、私の手を引いて歩き出した。
私は引かれるまま歩きだすと、こう訊いた。
「行くって・・・どこに?」
私の家に・・・と言いかけて、思いとどまる。
なんとなく、今は自分の家に行きたくなかった。
それは特に理由があった訳じゃないけれど、なんとなく・・・
「あの人」が、『来るな』って言っているようで・・・
でもはるなんは、私の質問に答えないまま手を引っ張って歩き続けた。
私は、はるなんの体温を感じながら・・・ふと、行き先に思い当たった。
そっか・・・あそこか。
私達が「友達」になった、あの場所に行くんだ。
美術館の敷地内のベンチは、あの時と同じように誰も座っていなかった。
はるなんは私を座らせてから「ちょっと待っていてください」と言い残し、どこかへ走り去ってしまった。
私がどこへ行ったか疑問に思うまでもなく、はるなんはすぐに帰ってきた。
その右手には、缶ジュースが握られている。
「走って、喉が渇いたでしょう。はい」
はるなんが差し出した飲み物に、私は少し躊躇したが素直に受け取った。
「ありがとう」
プルタブを引きあげて蓋をあけると、一気に飲み干す。彼女の言うとおり、喉がカラカラだったのだ。
・・・おいしい。
私の飲みっぷりに、はるなんはふふっと笑った。私が一息つくのを待って、彼女は話し始めた。
「・・・この間はごめんなさい。突然、帰ってしまって」
私ははるなんの顔を見つめた。その表情は申し訳なさそうではあったけど、とても真剣だった。
私は首を左右に振りながら答えた。
「ううん、それはもういいよ。ただ、その理由を訊かせて欲しい」
「わかりました。でも、その前に・・・」
「え?」
「さっきの質問の答え合わせをしませんか?」
はるなんはそう言って、私の目を強く見据えてきた。
答え合わせ・・・ああ。
お互いの、疑問。
「相手が、自分の事を本当に友達だと思っていたのか、です」
「そう・・・まず、それだよね」
「はい。じゃあお願いします」
「・・・えっ!?」
「はい?」
「それは・・・最初は、はるなんから答えてよ」
私が慌てて言うと、はるなんは一瞬口を尖らせたが、すぐに微笑んで話してくれた。
「私の方は・・・」
「うん」
「もちろん、あなたを友達だと思っていたに決まっているじゃないですか」
そうはっきりと言うはるなんは、嘘をついているようには見えなかった。
「もしそうでなかったら、最初にあなたに「お友達になりませんか」なんて言いませんよ」
私は、曖昧な表情になっていたと思う。私の顔を見て、はるなんは少し不思議そうな表情になった。
「なぜ、彩花さんはそう思ったんですか?私が友達だと思ってるかどうか、と」
「それは・・・」
そこで、私は今まではるなんに対して抱いていた数々の疑問を全て話して伝えた。
はるなんは黙って頷きながら聞いていたけど、なんだか段々笑いを堪えている顔をしていた。
話し終えると、はるなんはふっと吹き出した後、笑顔で答えた。
「なるほど。私、色々不自然でしたね。ごめんなさい」
「うん・・・あ、いや」
「ふふっ・・・今からする私の話を聞けば、あなたの疑問は全て解消されますよ」
はるなんはそう言って立ち上がった。そして私の前に立ってこっちを見下ろすと、顔を近づけてこう言った。
「そのかわり・・・私の説明が終わったら」
「え?」
「私の方の質問に答えてくださいね。あなたが、私を友達だと思っていたかどうかを」
私は、ゆっくりと頷いてみせた。
はるなんは優しく微笑んで、それから後ろを向いた。
そしてそのままこちらを向かずに話し始めた。
「私は・・・あなたに、笑顔を求めていたんです」
「・・・笑顔?」
「そうです。それも、「本当の笑顔」を・・・」
私は、自分で言うのも変ですが、「とても良い子」なんです。
自分の家でも、学校でも・・・周りの大人たちからは、「模範的少女」として扱われています。
その理由は、話し方が丁寧だとか、「オシャレ」な格好をしているとか・・・ようするに「良い子」だから、ですよね?
私自身、最初はそんなつもりは全くなかったんです。
話し方も、いつもの服装も・・・私がしたかったからそうしているだけでした。
でも・・・段々、周りから求められている「模範的な少女の像」を、自分が無意識に演じるようになっていきました。
私は、「良い子」だ。「模範的」じゃなきゃ、いけない。
・・・そうしなければいけない気がしていたんですね。そんなのは、完全に私の思い込みなのに。
でも、そんなものはすぐに化けの皮が剥がれます。
それはそうです。特に成績がいいわけでもない。体力があるわけでもない。
そんな私が「模範的少女」で居続ける為に、私はしなければいけませんでした。
つまり、「良い子」である証明・・・「可愛い笑顔」です。
私は、周りの大人に対して、その「笑顔」を振り撒きました。
どんなときも「笑顔」で接していれば、大人たちは私をいつまでも「良い子」だと錯覚していてくれる。
・・・まあ、それも浅はかな考えですけどね。
とにかく、私のその「努力」のおかげか、私は周りの大人たちから「良い子」のまま扱われつづけました。
でも・・・ある日、突然気付いてしまいました。
この「笑顔」を・・・私以外にも使っている人間がいる事を。
そう・・・私の、同級生たちです。
それも、私に向けて。
それまでは、私も大人たちに対してとは違って、同級生には本当に自然に接していました。
同級生と話す時・・・冗談を言い合ったり、楽しいおしゃべりをしている時。
私は自然と笑顔になって・・・笑っていました。
それは、もちろん楽しかったからです。
でも・・・実は笑っていたのは、私だけだったんです。
同級生たちは、本当は私に対して、「笑顔」を作っているだけだったんです。
理由は・・・私の大人たちに対する「良い子」らしい接し方が、気に入らなかったんですね。
ようするに・・・「良い子ぶるんじゃないよ」ってことです。
それに気付いた時、私は愕然としました。
今、私に向けられている同級生たちの「笑顔」は、私が大人たちに対して作っている「笑顔」と全く同じものだったんです。
・・・誰も、笑っていなかったんです。
「・・・だから私には、もう同級生たちと仲良く遊んだりすることができなくなってしまったんです」
軽く息を吐く音が聞こえ、そこで話は中断した。
後ろを向いて話しているはるなんの表情は見えない。
私は、今はるなんがどんな顔をしているのか気になった。
少しの沈黙・・・はるなんは、向こうを見たままだ。
私が声をかけようとした時、はるなんの声が遮った。
「だから、私には他に友達はいないんですよ。もう」
そして、はるなんはこっちへ振り向いた。
その顔は・・・「笑顔」だ。
ただ、私にはその「笑顔」が、「どっち」なのかがわからなかった。
「そう・・・」
私はそう呟いた。そして、これまでにはるなんが私に見せてくれていた「笑顔」を思い起こした。
今の彼女の「笑顔」は、私が思い出せる「笑顔」と比べても、何も違わなかった。
はるなんは、「笑顔」のまま話を続けた。
「・・・けれど、今でも私は・・・例え心の中ではどうあれ、学校では同級生に対して普通に接しています。「笑顔」を浮かべながらね」
「・・・そんなこと、できるの?」
「出来ますよ。要するに、大人と接している時のように、同級生たちと接すればいいだけですからね。簡単です」
「簡単」という言葉に、胸が疼いた。でもはるなんの表情は変わらない。
「そして、休みの日になると・・・私はひとりでいるのが普通になりました。もう、誰とも一緒にいたくなかったんです」
そして、少し俯きながらこう呟いた。
「もう・・・誰の「笑顔」も見たくなかったんです」
私は、黙ったままはるなんを見つめていた。
今の話を聞いて、少なからずショックを受けた。
私の前ではずっと笑顔だった彼女に・・・そんな秘密があったのか。
・・・ん?
でも、それじゃあ・・・
「ちょっと待って。なら、なんで私と友達になろうと思ったの?」
私ははるなんに、そう質問した。
当然の疑問だ。今の話の通り、もう誰とも一緒にいたくないなら、友達もいらないはずだ。
美術館でたまたま出会った初対面の子供を、いきなり友達にしようとするのはおかしくないか?
しかもそういう事情があるならなおさらだ。
「それに、もう笑顔を見たくないって言ったけど、さっきはるなんは私に「笑顔を求めてる」って・・・」
どういうことだ?
私が首を傾げていると、はるなんからくすくすと笑い声が漏れた。
さっきまでのそれと微妙に違う感じの「笑顔」を浮かべながら、はるなんはこう言った。
「本当にどうしたんですか?」
「え?」
「今日の彩花さん。今までのあなたと、まるで別人ですよ」
別人。確かに、自分でも驚いている。
今までの自分だったら、訊きたいことがあっても口に出さずに心に留めているだろう。
それに・・・言いたいことを、はっきりした口調で話せている。
いくら「あの人」に背中を押されたといっても、変わりじゃないか。
・・・本当に、単純なんだな、私は。
頭を掻いている私の横に、はるなんが座った。
隙間無く寄り添うと、なんだかいい匂いがした。
にこりと笑う彼女に喉が少し詰まって、私は慌ててこう口走った。
「あ、そうか。私が同じ魔道士だったから・・・」
「それは、全然関係ありませんよ」
そう即座に否定される。
え・・・そうなの?
「実は、私の同級生の中にも私たちのような魔道士の子が何人かいます」
「・・・え!?」
「ここM13地区には現在魔道士協会が存在しませんから、魔道士でも普通の学校に通うのがセオリーなんですよ。
だから、特にあなただけが同じだったわけじゃありません」
でも、私の学校には魔道士がいない・・・と言おうとして、ふと気付いた。
そうか。私が気付かなかっただけで、もしかしたら普通にいるのかもしれない。
魔法を使える事をバラしてはいけないらしいから、皆、口に出さないはず。
・・・そもそも、クラスの人間とまともな会話をしないんだし、わからないのは当然か。
「・・・あなたと友達になろうとしたのは、別の理由です」
はるなんは、私の目を見つめながら、こう説明した。
「私は、あなたなら必ず「本当の笑顔」を見せてくれると確信したんです。建て前で作った「笑顔」ではなくて、心の底から溢れてくる真の笑顔を」
「真の笑顔・・・」
「はい。だから私は、もう一度だけ「友達」をやってみようと思ったんです。あなたと・・・」
はるなんの強い口調と眼差しに、私は少したじろいだ。
・・・真の笑顔って・・・
なんで、私が?
・・・よりにもよって、私?
「あの、はるなん」
「はい」
「わけがわからないよ。なんで私なの?」
私は、首を左右に振った。そうだ。ありえない。
「私、ものすごい無愛想な子だよ。自分でもそう思うし、今まで一度も笑ったことなんてない。はるなんも実際に一緒にいてそう思ったでしょ?」
そうだ。私は、全く笑ったことがない。
ずっとひとりでいて、ずっと無表情だった。
学校でも、お父さんと一緒にいる時でも、笑顔になったことなんてないと思う。
そして、はるなんと一緒にいる時でも・・・
それなのに・・・
なんで、私が笑えると思うんだろう?
「いえ、あなたは笑えます。本当の笑顔になれるはずです」
はるなんは、私にそう言った。はっきりと。当然のように。
「・・・なんで、そんなことわかるの!?」
咄嗟に出た私の問いに、はるなんは更にはっきりした口調で答えた。
「それは・・・あなたの絵を見たからです」
「え?」
「あの絵・・・あの日、ここの美術館で出会った、あなたの『笑顔』です」
「あの絵に描かれていた、「彼女たち」の笑顔・・・私はそれを見た途端、ものすごい衝撃を受けました。そうだ、笑うというのはこういうことだ」
はるなんに笑顔が浮ぶ。優しい、笑顔だった。
「そして、こう思いました。こんなにに素晴らしい「笑顔」が描ける人間が、笑えないはずがないって」
私は、はるなんの笑顔を呆然と見つめていた。
笑顔の、絵?
まさか、それだけで・・・?
「で・・・でも、私は・・・」
「そうですね。そこで出会ったあなたは、全然「笑顔」を見せてくれませんでした」
はるなんはそう言って、笑いながらも少し困った顔をした。
「だから私は、あなたに笑ってもらう為に、様々な「努力」を始めたんです」
「・・・努力?」
「はい。先ほどのあなたの疑問の数々です。それが、私の「努力」の結晶なんですよ」
努力の結晶・・・
私は、自分が抱いていた疑問を再び思い浮かべた。
「私はまず最初にあなたと話した時に、あなたという人間を良く理解しようと思いました。
何が、あなたを喜ばせるだろうか。どんな話題に興味を惹くだろうか」
はるなんは、目を閉じながらゆっくりと話をしていく。
「そして逆に、何を言ったらあなたの機嫌を損ねるのか。私なりに、一生懸命リサーチしているつもりだったんですよ」
私は、初めてはるなんとおしゃべりした時のことを思い出しながら、少し呆れてしまった。
・・・あの時、そんなことを考えていたのか。
「そして、私なりの努力が始まりました。あなたが興味あることばかりをさせてあげよう。
逆に、あなたが嫌がることは、一切しないようにしよう、と」
・・・なるほど。
私は更に呆れながらも、はるなんの不可解な行動の数々が段々理解できてきた。
と、いうことは・・・
私は、はるなんの服装を改めて見つめながら・・・
「ああ、格好・・・そういうことか」
つい口から漏れてしまい、はるなんはふふっと笑った。
つまり・・・気を使いまくっていたのか。
自分に合った服装をせずにあえて私にあわせようとして、あんなに地味な服を毎回着ていたのか。
・・・私の、機嫌を損ねないために。
逆に、傷つくんだけど・・・
そんな私の思いとは裏腹に、はるなんの告白は続く。
「とにかくあなたの気分を良くするために、絵をずっと描いていてもらおうと思いました。
そして、あなたの興味のありそうな話題で楽しんで貰おうとしました」
「・・・」
「そして、あなたが魔法を使えないのなら、その話題は極力避けるべきだと思うようになりました」
そういうこと、か・・・
話を聞いていた私は思わずため息をついた。
魔法の事は、確かに彼女が初めて家に来たときには少し話していた。
でも、次に来たときからはもう話題に出ていない。
自分の家に帰ってから、色々悩んだんだろう。
・・・ようやく納得できたが、やっぱりちょっとやりすぎだ。
魔法にしろ服装にしろ、確かに少しは負い目があるけど・・・
そこまで気を使われるほど、避けたい話題というほどでもない。
やっぱり、最初からずっと思っている事だけど・・・
この子は、ちょっと変わっている。考え方も、行動も。
私の様子に、はるなんは少し申し訳なさそうに言った。
「・・・ごめんなさい。私、かなり失礼な事をしていました」
「・・・まあ、ね」
「でも・・・私のそんな努力にも、あなたは全く笑うそぶりがなかった」
そう言ってはるなんは、眉をひそめた。少し悲しそうな顔をしている。
「あなたは笑えるはずだと確信していましたが、帰り際になると我慢できずに・・・つい、訊いてしまっていたんです」
「ああ」
私ははるなんの言いたい事がわかった。
「はい。「一緒にいて楽しかったか」・・・あなたは楽しかったと言ってくれましたが、私にはそうは思えませんでした」
はるなんはため息をついて・・・慌てて口に手を当てて微笑んだ。
私は、「楽しかった」と毎回答えていた。
そう、楽しかったと思ったからそう言っただけだ。
・・・でも、本当に楽しいと思っていたんだろうか?
笑えない私は、本当は楽しいと思ったことがないんじゃないだろうか?
私の中にふと疑問が湧き出た時、はるなんの声が思考を遮った。
「ただ、それでも私は・・・いつかはあなたが笑ってくれる。そう信じ続けていました。でも・・・」
はるなんは、少し目を伏せながらこう続けた。
「前回にあなたの家に行った時・・・私が、急に帰ったのは・・・」
私ははっとした。
そうだ、突然帰ってしまった、その理由。
私は、その日を思い起こした。
はるなんの行動に疑問を持っていた私は、自分が何かしないとと悩んで・・・
そうだ。その結果、私は・・・
「急に帰ったのは・・・あなたの・・・」
「はるなん、待って。わかった」
彼女が言いかけるのを私は遮った。
そうか。今のはるなんの話を訊けば、理由はすぐわかる。
「・・・え?」
「はるなんはあの日、私の「笑顔」を見て帰った。すぐに気付いたんだね?私の笑顔が嘘っぱちだったことに」
私はそう言いながら、とても申し訳ない気持ちになった。
例えお父さんが教えてくれた「解決策」だったとしても、私は建て前の「笑顔」を作ったのだ。
それも、私の本当の笑顔を望んでいる彼女に・・・
私ははるなんに謝ろうと、彼女の顔を見た。
でもはるなんは、何故か曖昧な表情になっていた。
・・・ん?
「どうしたの?」
「そうじゃ、ないんですよ」
「・・・え?」
「私が帰った理由・・・確かに、私はあなたが無理をして作った「笑顔」をしている事にすぐに気付きました」
はるなんは、目を瞑って首を左右に振った。
「でも、そうじゃないんです」
「そうじゃないって・・・私が嫌になって帰っちゃったんじゃないの?」
はるなんは、首を振り続けている。その顔は、とても悲しそうだった。
「それじゃ、なんで・・・」
「嫌になったのは・・・私自身なんです」
はるなんは、目を開けた。その瞳の表面が、わずかに光を反射している。
・・・泣いている?
「ごめんなさい、彩花さん!」
呆気にとられている私に対して、はるなんが頭を下げた。
「・・・えっ?なんで謝るの!?」
謝るのはこっち・・・
そう言おうとした私に、はるなんの言葉が突き刺さった。
「私は・・・私は、あなたの「笑顔」を見て気付いてしまったんです。私も、あなたにその「笑顔」をずっと向けていたことに!」
はるなんの頬に、一筋の道ができる。
「私は、あなたに笑って欲しくて・・・自分なりの努力をしてきました。
でも・・・段々・・・あなたに変化が無いことが、その・・・苦しくなって・・・」
私は、黙って聞いている。
はるなんが辛そうに想いを正直に話すのを、ちゃんと聞き逃さないようにしないといけないと思った。
「なのに・・・あなたが嫌な思いをしないようにと思って、正直に言うことができずに・・・いつの間にか、私は・・・」
そしてはるなんは、喉の奥から悲痛な響きとともに想いを吐き出した。
「私は・・・あなたと一緒にいて楽しいと思えない時も、「笑顔」を作っていました!」
泣きじゃくる、はるなん。初めて見る、はるなんの泣き顔。
「だから、私はどうしていいかわからなくなって・・・あなたから逃げたんです。
ごめんなさい・・・ごめんなさい」
ああ、そうだったのか・・・
私は、はるなんの顔を見ながら、全て理解した。
そうか・・・そこまで・・・
そこまで、考えてくれていたんだ。はるなん。
しばらく声無く泣き続けるはるなんをジッと見守っていたけど、私はふとハンカチを取り出して・・・
「はい」
はるなんの顔を拭った。
「・・・ありがとう、ございます」
その目元が赤い。少し腫れているのを見て、私は胸が痛くなった。
はるなんはそのまま私に顔を向けて、拭かれるがままでいたが・・・
「でも・・・彩花さん」
「ん?」
「このハンカチは、私のです」
・・・あ、そうだった。
私が慌ててハンカチを畳み直すと、はるなんからくすくすと声が漏れた。
その顔は、もう泣いていない。
はるなんは、笑っていた。
「そして・・・でも、だから」
はるなんが、話を締めくくるようにゆっくりと話し始めた。
「私は、もう自分を偽るのを止めたんです」
その顔に、翳りはない。その笑顔は、やっぱり笑顔だった。
「あなたに会っても、本当の自分でいよう。気になった事があった時は、ちゃんと言おうと決めたんです」
そうか・・・
私は、気付いた。
だから・・・今日は、その服なんだ。
もう、私に気を使わないように、決めたんだ・・・
「さあ、これで私の話は終わりです」
そう言って私を見つめるはるなんの瞳は、泣いたからか透き通っているように見えた。
本当に、全部言い切ったんだろう。すっきりした綺麗な顔だ。
私は、その顔を見つめながら・・・ふうっと息を吐き出した。
「・・・彩花さん?」
「うん。わかった。はるなんの気持ち、全部」
そして私は、言おうと思った。
私の、正直な気持ち。
「私も、言うね。はるなんに、私の気持ち」
建て前じゃない、本当の気持ち。
はるなんと、ちゃんと話そうとして家を飛び出したときから、言うと決めていた事。
そして・・・今、はるなんの話を聞いて、わかった私の気持ち。
ちゃんと、言う。
それを聞いて、はるなんがどう思ったとしても。
言わなきゃ、いけない。
「私が、はるなんの事を友達だと思っているのか」
はるなんは、私の顔を真剣に見つめた。
私は、その眼差しを真っ直ぐに見つめ返して、言った。
「それが・・・わからないの」
「えええええ!?」
はるなんは、思わずずっこけたようだった。
「人に訊いておいて、それはないですよぉ」
そう言うはるなんは、心底呆れているようだった。その尖らせた口は、結構面白い。
ただ、その反応は予想通りだった。ただ、誤解が無いように、すぐに続きを聞かせた。
「待って。私は、「友達」っていうのがなんなのかが、正直今でもわからないの」
「そんな・・・」
「だから、「友達」としてどうとかって曖昧にじゃなくて、はるなんへの正直な気持ちを言おうと思う」
私が真剣な顔のままなのに気付いたのか、はるなんも真顔に戻った。
「私は、はるなんと一緒にいるとき、「楽しい」と思っていた。これが、「楽しい」ってことだって思い込んでいた。でも・・・違った」
「違った」という言葉に、はるなんはすっと寂しそうな顔をした。
私は、それでも続ける。言わなくては。
「そうじゃなかった。楽しくは、なかった」
「そう、ですか・・・」
「うん。私は、嬉しかったんだ」
はるなんの目が、大きく開かれる。
そう・・・これが。
これが私の、偽りの無い正直な、気持ち。
絵を描き続ける事は、私にとって本当に大切な事。私の、一部。
でも・・・はるなんが隣にいるときに、ひとりで絵を描いていても・・・
二人でいるのに、ひとりでいるような感覚だった。
全然、楽しくはなかったんだ。
でも・・・それでも、私は。
はるなんと、一緒にいられる時間は・・・
すごい、あたたかかった。
すごい・・・嬉しかった。
私は、続ける。最後まで、ちゃんと言う。
「はるなんと一緒にいられて、すごく嬉しかった。だから・・・それが「友達」なら、例え楽しくなかったとしても・・・」
私は、伝えた。想いを。
「私は、はるなんのことを友達だと思ってるよ」
私は、はるなんの顔を見た。
ちゃんと・・・伝わっただろうか?
私は、はるなんの顔を見た。
ちゃんと・・・伝わっただろうか?
ふと、はるなんの顔が消える。
・・・え!?
同時に、私の体に優しく体重が降りかかった。
「あ・・・はるなん!?」
「彩花さん・・・」
はるなんに抱きつかれた私は、そのまま動けない。
耳元で呟くはるなんの温かい言葉に、私は更に硬直した。
「ありがとう・・・」
「あ・・・あの」
「私、彩花さんの事、大好きです」
動けない・・・動きたくない。
しばらく、その体温を感じていたかった。
私たちは美術館の敷地を出て、私の家に向かって歩きだした。
・・・私は、はるなんに行きたい場所がないのか訊いてみた。
私の家ばかりじゃなく、どこか二人で楽しめるものがないかを考えようとしてみたのだ。
でも、はるなんは首を振って答えた。
「いえ、今日は彩花さんの家にお邪魔させてください」
どうしても、私の家に行く理由があるらしい。
私たちは、無言でゆっくりと歩いた。
ただ、その沈黙は全然息苦しくなかった。
楽しい、とは違う。やっぱり・・・「嬉しい」のだと思った。
私は前を向いたまま、はるなんに語りかけた。
「・・・はるなん」
「はい?」
「私、努力してみるね。笑顔になれるように」
はるなんからは、何の返事もなかった。ただ、呼吸だけが聞こえた。
「私・・・私ね」
「・・・彩花さん!」
はるなんが、立ち止まった。
私が振り向くと、はるなんは手をぽんっと叩いて声を張り上げた。
「今思い出しました!彩花さん」
「どうしたの?」
「私、彩花さんのあだ名を考えたんですよ!」
・・・はい?
「あだ名って・・・別に、いいよ」
「よくありません!」
はるなんは私の反応の薄さに憤慨しているようだった。少し強い口調で言い放つ。
「私ばっかりが「はるなん」なんてあだ名で呼ばれて、ずるいじゃないですか!」
「いや・・・あなたがそう呼べって言ったから、呼んでただけで・・・」
「問答無用です!」
有無を言わさぬ謎の迫力に、私はたじろいだ。
あだ名って・・・
「・・・なんで、今更?」
「それは、やっぱり彩花さんが嫌がるかと思ったから今まで自重していたに決まってるじゃないですか!」
・・・決まってるのか。
はるなんは私の微妙な様子に、少し声のトーンを落として訊いてきた。
「・・・駄目ですか?」
「いや、いいよ。どんなあだ名なの?」
私が答えると、はるなんは途端に目をキラキラ輝かせた。
私はそれを見て・・・ふと、はるなんと初めて出会った時の事を思い出した。
はるなんは嬉しそうに私に人差し指をビッと向けると、こう言い放った。
「「あやちょん」ってのは、どうでしょう!」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
「却下。」
「えええええええ!?」
はるなんが、大きくのけぞった。
いや、のけぞりたいのは私の方だが。
はるなんは、慌てて私に詰め寄った。
「そんなっ!私が・・・昨日、寝ないで考えたのに!」
「寝ないでって・・・」
「そのおかげで、今日は寝坊してしまいましたが」
「・・・来るのが遅くなったのはそのせいか!!」
私は、やれやれと首を左右に振った。
・・・やっぱりはるなんのネーミングセンスは、ちょっと変わってる。
「もういいよ、普通に「彩花」で」
それを聞いて、はるなんは口を尖らせた。納得がいかない様子だ。
私がまた歩き出そうとしたとき、あっという声が聞こえた。
そして、はるなんが私の肩にしがみついてきた。
「うわっ・・・何!?」
「わかりました!それじゃ、間をとって「あやちょ」にしましょう!」
あやちょ・・・
「それなら、どうですか!?」
「・・・うん、まあ、それでいいよ」
「やったあ!」
はるなんは私から離れると、ぴょんぴょんと前に走り出した。
私はため息をつきながら、そのあだ名を頭の中で反芻してみた。
あやちょ・・・
あやちょ・・・
・・・なんだろう。なんだか・・・
しっくり、くる?
私は少し悔しくなりながら、不思議と心になじむ名前に、ふわふわした気分になった。
「笑顔」の絵のネーミングもあったし・・・やっぱり、まぐれがあるのか?
「あやちょ!いいですね、あやちょあやちょ!」
はるなんが人のあだ名を連呼しながら、私に向かって声をかけてくる。
「さあ、これからはバンバン行きますよ!覚悟していてくださいね!」
「・・・覚悟?」
私は、眉をひそめながら呟いた。はるなんは、物凄い張り切っている。
「はい!あやちょには、いっぱい話したいことがあるんです!今まで遠慮していたことが、いっぱい!」
「・・・例えば?」
私が恐る恐る訊いてみると、はるなんからはある程度予想通りの答えが返ってきた。
「それはもちろん、あなたの服装、オシャレとかです!あとは・・・」
そして、私の耳元に近づいてそっと呟いた。
「魔法の事も、です!」
ああ、やっぱり。
私がうんざりした顔を隠さないでいると、はるなんは何故か嬉しそうな顔でこう付け加えた。
「そして、道重さんのことも、です!」
・・・ミチシゲサン?
私は、その聞き慣れない単語に思わず訊き返した。
「・・・なにそれ?」
「うふふ、今にわかりますよ」
そう言って、はるなんはまた前へ飛び跳ねていく。
やれやれ。
私はそう思いながら、これからの事を考えていた。
これから、はるなんと色んな事を体験するかもしれない。
それは、私が興味のないことも、沢山あるだろう。
でも・・・それでも。
これからも、はるなんと一緒にいられる。
なら、それは・・・
嬉しいことだと、思う。
ふと気付くと、はるなんが遠い前の方でこっちを見つめていた。
その顔は・・・笑顔だ。
遠くでも、私には、わかる。
その「笑顔」は、間違いなく、本当の笑顔だった。
とても綺麗で、可愛い・・・真の笑顔だった。
私も・・・私も。
いつか、笑えるような、気がした。
「あやちょー!」
そのはるなんが、遠くから私の顔を見つめたまま、こう声を上げた。
「・・・気付いてますかぁ?」
・・・え?
気付いてるって?
「何がぁ?」
「なんでも、ありませーん!」
はるなんの声は、とても嬉しそうに聞こえた。
なんだろう・・・?
私が今のやりとりがどういうことなのか考えていると・・・
「あっ!」
はるなんが立ち止まって、こちらに近づいてきた。
「どうしたの?」
「あやちょ、忘れてました。大事なことです」
真剣な顔で、はるなんは私に言った。
「あなたの家に行く前に、スーパーに寄りたいのですが」
「・・・スーパー?」
突然出てきた生活感溢れる言葉に、私は一瞬戸惑った。
「何か、買うの?」
「はい!あやちょも、運ぶのを手伝ってくださいね!」
そう言って、はるなんは笑顔を輝かせた。
私の家にスーパーで買った大量の食料品を持ち込んだはるなんは、私のお父さんに「パスタ禁止令」を突きつけた。
そして、持ってきた食料でバランスのいい食事を作るように命じたのだった。
私の家の食事が毎日三食スパゲティであることを、前から相当気にしていたらしい。
私は疑問にも思わずにそれが当たり前になっていたが、言われてみればちょっとやばいかもしれない。
・・・栄養的に。
お父さんは最初は反抗したが、栄養の事を言われてはしぶしぶ了解するしかなかった。
・・・でも・・・
「いや、それでも三日に一度は明太子スパゲティを許してくれ!」
そう、はるなんに許しを請うお父さんに、私からも一緒にお願いした。
・・・やっぱり、お父さんの明太子スパゲティは、世界一美味しいから。
その後、私たちは3人で悪戦苦闘しながら、なんとか新しい食事のメニューでランチを作ってみたのだ。
・・・でも、意外というかなんというか。
「はるなん」
「はい?」
「もしかして・・・料理、へたくそ?」
「うう・・・」
「おい、しゃべってると鍋焦がすぞ!」
そんなこんなでできあがった昼食は、ちょっと味が変だったけど・・・
すごく、美味しく感じられたのだった。
・・・その日。
はるなんが横で見守ってくれている中・・・
私は、次のコンクールに応募する「作品」を完成させた。
はるなんが、早速名づけてくれた。
そのタイトルは・・・「奇跡の女性 ジジ」。
そう、その日に完成したその絵と・・・そこに描かれた私、「ジジ」は・・・
私達にとって、特別な存在になった。
そして・・・そう。
あの絵の人・・・
はるなんが帰った後、私はあの絵に、話しかけた。
もう一度、ちゃんとお礼が言いたかった。
でも・・・
あの人・・・「フクダカノン」。
私がどんなに話しかけても・・・どんなに見つめても。
もう、語りかけてくることは、なかった。
あの人は、なんだったんだろう。
いつも私を小馬鹿にしているような口調で・・・でも。
私の背中を、押してくれた。
あれは・・・私の、妄想だったんだろうか?
でも、私は・・・信じている。
あれは、幻じゃない。
私の手に、あの人の肩の感触がまだ残っている。
私は、あの人に触れたんだ。
そう。もしかしたら・・・
もしかしたら、あれは。
魔法だったんじゃないか。
無意識に私が使った、魔法の力なんじゃないか。
だから・・・
私は、ある決心をした。
もう一度、あの人と話すために。
そして・・・
それから、一年が過ぎた。