尾形春水ちゃんは、私にとって可愛い後輩の一人です。
ただ、事あるごとに私のことをネタにして辛口に絡んでくる
小憎らしさも持ち合わせています。
まあ確かに、キャラを出していくために積極的に私のことをネタにして弄っていいからと
最初にアドバイスしたのは私の方なので、あまり腹を立てるのもどうかとは思うのですが、
それにしたって限度というものがあるわけで。
中でも、先日のライブ中にあったトークコーナーでの
尾形ちゃんの弄り方は特にひどいものでした。
それは『知人だと思って声かけたら違う人だった王決定戦』という、
お題に沿った動き、リアクション、仕草などを披露して、誰が上手かったかを競うコーナーで、
私が司会、尾形ちゃんが挑戦者の1人だったのですが。
尾形ちゃんはなんと、「飯窪さんかと思ったら別人だった」という設定で、
「あっ、飯窪さん。あの~ここの歌詞の意味がわかんなくて教えてほしいんですけど。
飯窪さん、飯窪さん……? あ、ベニヤ板やったわ」
というネタをぶち込んできたのです。
尾形ちゃんの目論見通り、客席は爆笑と歓声に包まれ、
司会という立場上ツッコミも入れられない私はただただ睨みつけることしかできず、
その形相がスクリーンに映し出されるとさらに客席が沸くという悪循環。
さらにそれだけでは終わらず、
「飯窪さん、飯窪さん。飯窪さんここの歌詞の意味がちょっとわかんなくって……。
あ、これもベニヤ板やったわ」
というお笑いの教科書通りの「天丼」をかまし、
挙句の果てには私のことを指さし、
「あ、そこのベニヤ板が飯窪さんや。飯窪さん!!」
という、見事な三段落ちを披露する完成度の高さ。
挑戦者3人全員のネタが終了した後は、会場の拍手で判定をするのですが、
空気を読んだ客席は当然のように尾形ちゃんに拍手喝采を送り、
結果、『知人だと思って声かけたら違う人だった王』の座を射止めたのは尾形ちゃんでした。
「どうですか、優勝した、そう感想とか。
……先輩をダシに使った感想はどう?」
私にできることは、せめても最後に精一杯の皮肉をぶつけることくらい。
「飯窪さんが、寛大な心でいつも受け止めてくれるから、
いつもこうやってこう弄れるんですよぉ」
こういう時に空気を読んでサッとへりくだることができるのが、
尾形ちゃんの小憎らしいところでもあり、さすがだと思うところでもあります。
「まあ、それがわかってればよろしい」
そんな対応をされたら、私としても不承不承振り上げたこぶしを下ろすしかありませんでした。
そんな可愛らしさとともに小憎らしさも全開の尾形ちゃんなのですが、
その印象を一変させる出来事があったのです。
〇
その頃、モーニング娘。'16内では心理テストが流行っていました。
そこで私は、左手の指を掴んでもらうテストを尾形ちゃんにしかけたんです。
相手が掴んできた指で結果が分かるのですが、
親指→あなたに従う
人差し指→ライバル視
中指→変な人だなぁ
薬指→好き
小指→下に見てる
どうせ尾形ちゃんが掴むのは中指か人差し指辺りなんだろうな。
小指を掴まれたらさすがにちょっと嫌だけど。
なんて思っていたのですが。
「どの指にしようかな~」
グッと差し出した私の左手を前にして、いつもの笑顔で迷う素振りを見せる尾形ちゃん。
そして……。
尾形ちゃんが掴んできた指は、薬指でした。
薬指でした。
好き( ^ω^ )
まさか一番あり得ないと思っていた薬指を選ぶとはまったく予想外でしたが、
実は私のことをそんなに好きと思ってくれてただなんて。
あんな辛口に絡んでくるのも、小学生男子がわざと好きな娘に意地悪してしまうような
好きの裏返しの行為だったのね。
「どうしたんですか飯窪さん、いきなりデレデレしだして。
この心理テストでどんなことがわかるんですか??」
尾形ちゃんの問いかけで我に返ると、目の前には私の顔を覗き込む尾形ちゃんのドアップが。
好意を示された直後に尾形ちゃんの端正な顔を間近で見たことで変に意識してしまったのか、
不覚にもささやかな私の胸が大きく高鳴るのを感じ、思わず反射的に顔を引いていました。
「ちょっとなに動揺してはるんですか~」
ニヤニヤしながらツッコミを入れてくる尾形ちゃん。
おかしい、なんで私は尾形ちゃんなんかにこんなドキドキさせられてるんだろう?
いくら尾形ちゃんに好意を示されて嬉しくなってしまったからといって。
……って、ちょっと待って!?
「好意を示された」って勝手に既成事実のように感じちゃってるけど、
ただ心理テストでそういう結果が出たというだけで、
実際どうなのかは全く別問題のはずじゃない。
いくら私が単純な人間だからって、なんでいつの間にこんな勘違いをしちゃってるんだろう?
これってもしかして……。
尾形ちゃんになんか魔法をかけられたとか??
咄嗟に頭に浮かんだのはそんな疑念でしたが、
直接そのことを尾形ちゃんに確認するわけにもいきません。
なぜって、尾形ちゃんが魔法を使えることを私が把握しているという事実は、
尾形ちゃんにとっては知るよしもないはずのことですから。
それに事前に魔法を使われたような気配も感じなかったし、
もし魔法でないとすれば、導き出される答えは……。
尾形ちゃんのニヤついた笑みを前にして、
そこで私はようやく一つの結論にたどり着きました。
「ちょっと尾形ちゃん!
この心理テストの結果を事前に知ってて私のことからかってるでしょ!?」
私の強い指摘に、尾形ちゃんのニヤつきが更にわざとらしいものになりました。
「まさか~、そんなわけないじゃないですか。
もし本気で飯窪さんをからかうつもりなら小指の方を掴んでますって」
なるほど。
確かにからかうのなら、小指の「下に見てる」の方が弄りやすそうです。
……って、ちょっと待って!?
「やっぱり心理テストの結果わかってんじゃないのよ!!」
あまりに単純すぎる私は、危うく誤魔化される寸前でどうにか矛盾に気づきました。
「アハハハハ、バレちゃいましたぁ?」
能天気に笑いかけてくる尾形ちゃん。
でもその直後、尾形ちゃんの表情が一変したのです。
「でも、飯窪さんの薬指を掴んだ春水の気持ちは、嘘偽りのない本物ですから」
これがいつもの笑顔でサラリと口にしたならただの冗談だと受け流せるのですが、
突然真顔になってそんなことを言うものですから、
尾形ちゃんの豹変に当てられた私の動揺は計り知れません。
急激に顔が火照って、再び痛むほどに胸が高鳴りだします。
一体どこまで人のことをからかえば気が済むのよ!!
そう一喝してやりたい気持ちもありましたが、
口の中がカラカラに乾いて声も出せません。
そんな私に、尾形ちゃんは更なる追い打ちをかけてきました。
「次は飯窪さんの番ですよ。飯窪さんの気持ちを、春水に教えてください」
真剣な表情はそのままに、左手を私の顔の前に差し出してくる尾形ちゃん。
この状況は……。
私は一体どうすればいいんだろう??
「人のことをからかうのもいい加減にしなさい」と突き放して、
とにかくこの場を収めるのがいいか、それとも……。
尾形ちゃんのペースに呑まれて頭が真っ白になりかけながら、
差し出された左手を黙って見つめることしかできない私は、
そこでようやくとある異変に気づきました。
尾形ちゃんの左手が、小刻みに震えていることに。
ハッとして視線を尾形ちゃんの顔に向けると、
普段は抜けるような白さの尾形ちゃんの頬が赤く染まっていて、
汗をかきにくい体質のはずなのに額には薄ら光るものが見えました。
尾形ちゃんが……緊張してる。
あくまで平静を装ってはいるけれど、実際は尾形ちゃんも震えるほどにドキドキしてる。
私からどんな答えが返ってくるか、きっと胸が張り裂けそうな想いで待っているんだ。
そこで私は、確信しました。
こんな状況にまでなっていても、尾形ちゃんにからかわれるんじゃないかという疑念が
ギリギリまで消えなかったのだけど、そうじゃないんだ。
尾形ちゃんの私への好意は、紛れもない本物なんだ……と。
それとともに一つの想いが私の中で芽生え、
そして大きく膨らんでいくのをはっきりと感じました。
それは、尾形ちゃんに対する愛おしい想い。
年下の尾形ちゃんが、こんな健気にも気持ちを伝えてくれているのだから、
私も真剣に向き合ってあげないと。年上の私がエスコートしてあげないと。
そんな想いのままにゆっくりと手を伸ばした私は、
尾形ちゃんの指を掴みました。
そう、薬指を。
好き。
その時の尾形ちゃんの顔は、今でも忘れることができません。
喜びと、驚きと、安堵と、そしてからかわれてるんじゃないかという疑念と、不安と、
全てが入り混じったような表情。
私は、そんな尾形ちゃんを安心させるように微笑みました。
「大丈夫、私も尾形ちゃんと同じ気持ちだよ。
尾形ちゃんのことが大好きだから」
でも、このまま尾形ちゃんの主導で最後まで終わらせるわけにはいきません。
私にも先輩のプライドというものがありますから。
私の言葉に、ようやく尾形ちゃんの表情から不安の色が消えた一瞬の隙をついて、
笑顔のままで顔を寄せた私は……。
驚き顔で目を見開いた尾形ちゃんの、柔らかな唇を奪ったのでした。
…
…
…
从*・ 。.・)<今後はこんな展開に期待してるの
ノハ*゚ ゥ ゚)<ぜっっったいにあり得ませんから!!!!
(おしまい)
※参考
心理テストの結果、、、 飯窪春菜
http://ameblo.jp/morningmusume-10ki/entry-12201220526.html
尾形はるなちゃん、いつも私に辛口に絡んできますが
先日、モーニング娘。'16内で心理テストが流行った時に
左手の指を掴んでもらう心理テストを尾形ちゃんにしかけたんです。
相手が掴んできた指で結果が分かるのですが
親指→あなたに従う
人差し指→ライバル視
中指→変な人だなぁ
薬指→好き
小指→下に見てる
尾形ちゃんが掴んできた指は、薬指でした。
薬指でした。
好き( ^ω^ )
あの日から、私の中の尾形ちゃん、さらに可愛い。笑
私も単純な人間ですけどニヤニヤ
ぜひ近くの方にやってみてくださいね!
仲良くなるか、険悪になるか、責任は一切負いませんニヤニヤ